2019年4月

 ノートルダム大聖堂が火災で破壊された。その後大聖堂の屋根や尖塔に使われていた鉛の行方に関心が持たれてきた。その中研究者らは2019年12月と2020年2月に、大聖堂近くの土のサンプルを複数集めて蛍光X線で鉛の量を測定した[1]。ついでそのデータをもとに、どの程度の鉛が火災で落ちたかが見積もられた。その結果、大聖堂の1 km以内におよそ1000 kgの鉛が落ちたことがわかった。これは地方自治体が見積もった量の6倍に相当する。研究者らの検証実験は、鉛で編み上げられたチリがその地域に落ちたことや建物にも入り込んでいる可能性を示している。米国の疾病管理予防センターは、残留する塵や土を取り込むことは、家庭で子供が鉛に晒される一つのパターンであると指摘している。火災の直後の環境調査は防疫官に危険を警告していたものの、火災の後すぐには、土、ちり、血液サンプルはほとんど集められておらず、この火災からの鉛が人の健康にどのように影響するかを解明することが難しいのが現状である。鉛の影響があんまりわからないのか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 20, p. 13.

DOI: 10.1029/2020GH000279

20.8.5

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COVID-19ワクチン

 の初めてのフェーズIII臨床試験が先週開始された。それらはModernaとNIHが開発するmRNA-1273とPfizerとBioNTechが提供するBNT162b2である。どちらもフェーズIII試験にはおよそ3万人が登録し、そのうちランダムに選ばれた半分はプラシーボが投与される。mRNA-1273に関する発表では、ボランティアを募集するwebsiteにはこれまでに15万人が登録しているとのことである。現在も感染が拡大していることと試験に対する関心の高さから、11月か12月にはワクチンの効果と安全性が明らかにされるはずである。もし結果がよかった場合には、いつそれらが一般に行き渡るかであるが、緊急事態では未承認ワクチンの備蓄や配給も考えられる。Modernaは2021年には数億錠のワクチンを提供できる準備をしており、さらに来年中には10億錠に近い数まで押し上げることがゴールであるとしている。Modernaから、もう出るかなと待っている。

[1] Chemical & Engineering news, 2020 August 3, p. 10.

20.8.4

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外傷や脳卒中に

 苦しめられると体は、炎症応答としてスーパーオキシドアニオンとして知られている酸素ラジカルアニオンを発生させる。もし過剰のスーパーオキシドアニオンが生じてしまうと、これらのラジカルはさらに体にダメージを与え、脂質から水素原子を引き抜き、DNAに大打撃を与える。その中研究者らは、費用効率の高い炭を使って、スーパーオキシドと反応しそれらを過酸化水素と水に分解できるカルボニル基が分散した炭ナノ粒子を作成した[1]。粉末の炭を奮発し濃硝酸で処置した、酸化ナノ粒子と複製したナノザイムは、過剰の過酸化水素を、体にある天然酵素よりもかなり速い速度で分解する。今回の成果は、低分子医薬品や酵素ではなし得ないことを、ナノ材料がなし得た好例である。さらに今回のナノザイムは、サイトカインストームの効果やスーパーオキシド生産に関わる炎症応答の低下に利用可能である。なおこれらの応答は、COVID-19に罹患した人では、肺の膨れや他の臓器へのダメージを引き起こす可能性も指摘されている。ナノザイム、隅に置けない炭ナノだ。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 20, p. 12

DOI: 10.1021/acsanm.0c01285

Nanozyme:ナノ材料がもとになった人工酵素のこと。

20.8.3

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古代ローマ人は

 当時、ダイニングの陶磁器やカラフルなモザイクなどをガラスで作成していた。ただしローマ人はその中で特に、無色の半透明の、アレキサンドリアンと呼ばれるガラスを好んだ。これは考古学の謎の一つだったものの今回、アレキサンドリアンサンプル中のハフニウム同位体がこの太古の起源を明らかにした[1]。古代ローマの都市で現在のアンマン(ヨルダン)に近いゲラサで、異なるタイプのガラス片が集められた。その中のストロンチウム、ネオジム、ハフニウムの分析が行われた。SrとNd同位体は以前も使われたものの、これらの元素の同位体では、地中海の他の地域で集められたガラス片と区別することはできなかった。それに対してサンプルは特徴的な176Hf/177Hf比を示し、これはナイル堆積物の砂に見られる鉱物の比であるため、アレキサンドリアンはエジプトで製造されたガラスの一つであることがわかった。今回の研究は古代ローマ時代の取引の慣習を明らかにするだけではなくて、Hfが別の加工品の分析にも利用可能であることも示している。アレキサンドリアん、ど〜りゃんステキさん

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 20, p. 11.

DOI: 10.1038/s41598-020- 68089-w

20.8.2

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輪状の

 分子集合体を合成しようとしていたところ研究者らは、単純なモノマーから非結合性相互作用だけでつながったナノスケール鎖を組み立てた[1]。これは化学におけるオリンピック級の手柄である。水素結合相互作用だけで、六員環スプラマクロサイクルが形成されている。この雪の結晶のような構造が積み重なりさらに曲がって蛇のような構造やヘリカルコイルを形づくる。研究者らはある種の極性と非極性溶媒を混ぜた時に、環が連結することを観測した。さらに環の内側は、別の環を形成するように仕向けられていた。環の溶液にモノマーを加えていくと、22までが繋がった長いスプラモレキュラー鎖を形成した。このような大きくて、一定の大きさの環が曲がったり輪になったりするプロセスは注目すべきであり、機械的にかみ合わさった大きな長さのスケールの分子構造の特性を探究する道を開く成果である。この成果を公表した日本の研究者らは最初、オリンピックゲームのシンボルに類似の五つの輪がリンクした鎖を作成したことから、成果を東京オリンピックの年に出版したかったとのことである。オリンピックは延期されたものの、2020年に礎が公開された年、TokyoならぬChiba2020になった。環を見て考えて、感動されたでしょうか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 20, p. 11.

DOI: 10.1038/ s41586-020-2445-z

20.8.1

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深海に棲む

 生き物の生物発光は、暗闇を鮮やかに照らす。この秘訣は超黒い肌が鍵であることが報告された[1]。16種類の深海魚の肌を分析した結果、これらはわずか0.5%以下の光しか反射しないことがわかった。鳥や昆虫は、超黒い配色を、ケラチンやキチンのマトリックスの中にメラニンを埋め込むことによって、行っている。一方魚の肌の透過電子顕微鏡では、メラニンが詰まった細胞構造しか観察されず、このことは色素だけが色に関係していることを示している。これによって、肌が吸収しない光は脇に飛び跳ねて、近傍で吸収されることになる。この新たに発見されたメラノソ―ムの構造は効果的で、関連のない魚でも見つかる可能性も高い。深海の深さでは、カモフラージュは重要な生存戦略である。隠れる場所がないためフットボール場で「かくれんぼ」をするが如くである。超黒い肌は、ミツマタヤリウオのような大洋の捕食者から魚たちを護るだけではなくて、自身が発する生物発光で、食い尽くされるのを防いでいるかも知れない。深海も研究しんかい、未開領域です。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 20, p. 8.

DOI: 10.1016/j.cub.2020.06.044

20.7.31

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荒野に拡散する

 マイクロプラスチックの動きを追跡している研究者らは、汚染物質が川から大洋に移動するような水路に注目してきた。ただしこの経路では、マイクロプラスチックがさらに遠くの領域に広がっていることを説明することができない。例えばイエローストーン国立公園の川に見られるマイクロプラスチックは、水路では到達することが難しい。研究者らはここではタイヤやブレーキパッドの摩擦によって大気に放出されるマイクロプラスチックの大気輸送に着目した[1]。回収されたタイヤの重量減少などの情報を組み込み、微粒子に対する大気輸送モデルが構築された。その結果大気輸送は、プラスチック微粒子を人口密度の大きい場所から北極を含む遠い場所に移動させていることがわかった。これによって毎年、交通によって生じる微粒子140ktを世界の大洋に、また86.1ktを世界の氷や雪の世界に輸送している。すでに脆弱になっている雪や氷形成の場所へのマイクロプラスチックの堆積は、注視すべきである。これらの黒い物質は太陽光を吸収し熱を発し、雪や氷の融解を誘発する。なお先月、米国西部の自然保護区域から採取したサンプルのおよそ98%にマイクロプラスチック汚染物質が含まれていることも報告された[2]。マイクロに、毎度苦労しつつ、プラスに進んでいる。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 20, p. 8.

DOI: 10.1038/ s41467-020-17201-9

[2] DOI: 10.1126/science. aaz5819

20.7.30

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熱分解では

 廃プラスチックのようなフィードストックが低酸素条件下で加熱されて、より単純な炭化水素の混合物に分解される[1]。温度、圧力の反応条件の微調整や触媒の使用で、様々な生成物の混合物が、これまでも今後も得られる。熱分解会社エンスィーナは、年間16万トンの廃プラスチックを処理し、ベンゼン、トルエン、キシレンのいわゆるBTX混合物を9万トン製造する予定である。BTXは通常原油から得られる。エンスィーナによれば、設計はモジュール式で、容量は後から追加できる。さらに同様なプラントを世界で四基建設する予定である。Braven Environmentalは、年間6万5千トンの廃プラスチックからディーゼルエンジン用の炭化水素混合物を5千万トン製造できるプラント建設を中央バージニアで計画している。さらにこのプラントではH2とCOが主成分の合成ガスも供給できる予定で、これらがプラントの燃料に利用できる。2021年半ばに稼働予定で、52の正社員のポストも用意される。環境擁護者は、拡張性、有毒な副生成物、使い捨てプラスチックからの逸脱という観点から熱分解の利点について議論している。一方でリサイクル推進者は、エネルギーを節約できること、プラスチックの埋め立てや河川への廃棄を回避できる一助であると反論している。熱分解に、目つぶるんかい?ではありません。

[1] Chemical & Engineering News 2020 July 13, p. 11.

20.7.29

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COVID-19ワクチンを

 開発する四つのグループからその途中経過が公開されている。フェーズII試験の結果を含んでいるが、これらのワクチンのうちどれが有効であるかを示すことは時期早尚である一方、結果は有望でいずれのワクチンもたいていの人で免疫応答が観測されている。ただしこれら四つは違った方法で免疫応答を評価しているために有効性を直接比較することはできず、大規模なフェーズIII試験が必要である。これらのワクチンはいずれもSARS―CoV-2スパイクタンパク質を体内に発生させて、これに対する抗体が2~4週間以内に体内で成長する。ただし課題山積である。スパイクタンパク質にバインドした抗体が感染を防ぐことは保証されていない。ほんのわずかな抗体、すなわち中和抗体だけが、まさにピンポイントで感染を防止することが可能である。ただしこの中和抗体の測定には、より多くの経費と時間も必要である。また抗体応答の寿命も別の因子である。あるグループのワクチンでは、高いレベルの抗体が観測されたものの、2週間後には急速にそのレベルが低下していた。安全性と副作用の問題:四つのワクチン全てが、疲労、頭痛、筋肉痛、不快感、悪寒、発熱のような副作用を引き起こし、ワクチン投与量が多くなるとその程度も大きくなる場合もあった。年齢によるワクチンの効果について:あるワクチンは55歳以上の人では抗体応答がかなり後退していた。他の三つのワクチンの試験には18歳から55歳までの、しかもほとんど白人が協力した。フェーズIII試験は55歳以上や別の人種の方々でも行う必要がある。浮沈するワクチン開発、不惑でチャレンジされますように。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 27, p. 4.

四つのグループ:米国企業Moderna、オックスフォード大学(権利はAstraZeneca)、中国企業CanSino Biologics、Pfizerとドイツ企業BioNTech

20.7.28

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転位反応は

 置換芳香族化合物を導く有用な方法である。ただし芳香環の周りで置換基をシフトさせる多くの方法では、官能基は、空いた炭素上に残ったままである。例外的にハロゲンダンスでは、ハロゲンが隣接する炭素にシフトするとともに水素がハロゲンの結合していた炭素上に移動する。その中、日本の化学振付師らは、エステルダンス反応を開発した[1]。反応はジホスフィン–チオフェン配位子、塩基、Pd触媒存在下で進行する。ナフタレン、ピリジンを含む30以上の異なるアレーンを用いた成功例が示されている。この発見はハプニングから生まれ、研究者らは発奮したかもしれない。ここでPd触媒は、Pd-アレーン中間体を形成する前にエステルに挿入する。ついで隣接する炭素でかつ熱力学的に好ましい位置でエステルが再生すると考えられている。さらにエステルダンスと脱カルボニルカップリング反応を組合せた反応も開発されて、一連の高付加価値な分子へのワンポット経路が提供されている。このダンスは、医薬品や農薬のための、エステルやカルボン酸中間体合成にも利用可能である。エステルダンス、いかスてるだんス。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 July 13, p. 9.

DOI: 10.1126/sciadv. aba7614

20.7.27

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