3つの生成AI(genAI)に

 カフェインの化学構造式を書いて欲しいとお願いをした[1]。その結果genAIの一つであるGrokは、化学結合のようなもので繋がった球体の灰色がかった不定形の集まりを描いた。ただしそれはカフェインあるいは他の何かの化学構造式を連想できる結果ではなかった。そこでより具体的に「カフェインの分子構造を描いてください」とGrokに指示。その結果、蜘蛛の巣のような結果を導き出した。次にGoogleのGeminiは、4つのイメージを導き出した。そのうち1つは正しい数の結合を有していたが他の部分は全て間違っていた。3つのイメージについてカフェインの化学構造式を当てはめようとしていたものの、いずれも不正解だった。最後にChatGPTここにはイメージを生成できるソフトウエアであるDall-E3が搭載されている。面白いことにChatGPTは「現時点では、化学構造式を示すことはできません」と回答すると同時に、段階的に描く方法を教えることをオファーした。まずは正しい分子式C8H10N4N2が示された。ただしその後は「全ての結合がはっきりと書かれていますか」とは言うものの、どの元素同士の結合かの指示はなかった。生成AIはこの段階では、これをやり遂げるには至っていない。

 カフェインの構造、フェイントか?

[1] Chemical & Engineering News 2025 March 24, p. 48.

25.4.20

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甲殻類やフジツボのような海洋の生き物は

 海洋生体接着剤を利用し、自分自身を岩や船体のような硬い表面にしっかりと固定する[1]。このために水中でも繋ぎ止められる接着剤を生き物は生産する。その例としてムラサキイガイでは、溶解したタンパク質と金属イオンから接着剤を、牡蠣はタンパク質と炭酸カルシムとの混合物からセメントを、カサガイは粘り気のあるタンパク質が基本の粘液を分泌する。ムラサキイガイの場合、コアがコラーゲンで、外側には固体化した膠(にかわ)タンパク質由来のキューティクルである足糸をつくる。これらのタンパク質は、海水からの金属イオンが、カテコールのようなアミノ酸側鎖と交差連結すると硬くなる。足糸の糸にある接着性のプラークは、にかわタンパク質の中のリシンや3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(ドーパ)によって表面に接着できる。リシンは、表面の酸化物にバインドしたカチオンを置き換え、ドーパのカテコール側鎖と水が相互作用するのを防ぐ。カテコールは表面のミネラルや酸化物と水素結合を形成する。

 カテコール、戻ってきてと、カーテンコール。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March, p. 25.

25.4.19

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ピロリ菌は

 尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解できるウレアーゼを生産する珍しい微生物の一つである。もし人が13Cラベル化された尿素のピルを飲むと、20-30分後には、人は13CO2を吐き出す。現状のピロリ菌の呼気診断では、サンプルが赤外吸収スペクトル装置が設置されている研究所に送られて、12CO2の13CO2への波長変化がチェックされる。それに対して今回、現場で試験ができる携帯用の赤外吸収スペクトルを搭載した小型ガスセルが開発された[1]。ここでは小型化された中赤外スペクトル(MIR)装置が使われている。ブロードバンドエミッターをレーザーやLEDのような狭帯域源に置き換え、ガスと光子が相互作用できる小さな空間も確保した。中が空洞のアルミニウムチャンネルで、ガスを保持しMIR光が透過できるBaF2窓が端に取り付けられている。センサーの上には呼気の入口と出口も備わっている。体積は、ガス分子が定常的に光子にぶつかるほど小さいため、それらの頻繁な相互作用が可能である。チャンネルの幅が3 cmであるために、12CO2と13CO2に相当する2349 と2280 cm-1を正確に区別することができ、ピロリ菌診断に適用し得る。

 ピロリ菌だ、ぴたりと当たるといいです。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March, p. 6.

DOI:10.1021/acssensors.4c02785

25.4.18

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中国、シンガポール、米国の

 15の市にある38の異なる排水処理施設から84の汚泥のサンプルを研究者らは集めた[1]。これらの汚泥サンプルから抽出した微生物叢を使って、微生物がテトラクロロエテンを解毒化し、それをエタンに変換できるかどうかを検証したところ、84の汚泥微生物叢サンプルのうち63がテトラクロロエテンを完全に解毒化できることがわかった。この成果は生物による環境修復技術への一歩である。研究者らは、解毒化できたバクテリアの遺伝子分析を行い、塩素化溶媒からの塩素の除去を触媒できる酵素であるRDasesをコードする遺伝子を探索した。その結果、このような酵素をエンコードできる複数の遺伝子が同時に、汚泥の中の微生物コミュニティに共存していることもわかった。微生物株を知り、解毒可能性を実証できる遺伝学を理解することによって環境浄化の能力が最適化されたバクテリアを遺伝子操作で導くことも可能である。その成果は、PFASのような別の汚染物質の処理にも適応し得る。

 汚泥から、おいでになりました。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March, p. 5.

DOI:10.1021/acsestengg.4c00900

25.4.17

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ケラチンは

 羽、角やウールを構成する丈夫なタンパク質である。それはバイオプラスチックのための有望な持続可能な原材料である。ただ交差連結したタンパク質であるために、加工することが難しく脆性薄膜になる。その中今回、ケラチンに含まれるシステインが有するチオールの炭素–炭素二重結合に付加するマイケル型の反応を利用することを研究者らは考えた。最初に尿素とメタ重亜硫酸ナトリウムの水溶液にウールを溶解させてケラチンを抽出した。これによって長鎖の折り畳まれていないタンパク質一本鎖の濃いスープが導かれた。ついでここに、ポリエチレングリコールとエポキシ化された大豆油アクリレートあるいは別のC-C二重結合を含む化合物を加えた。チオール基はこれらに付加した。尿素、重亜硫酸塩、結合していない分子を除去した後、改変したケラチンを個体のバイオプラスチックに入れ込んだ。その結果ケラチンに新しい特性が付与された。PEG-ケラチン材料は熱可塑性材料のように加熱や成形ができた。また大豆油ケラチン材料は柔軟なフィルムに変換することもできた。

 ケラチン加工場所、家賃もいるかなあ。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March 24, p. 5.

DOI:10.1016/j.matt.2025.102039

25.4.16

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オゾン分解と同様に

 炭素–炭素不飽和結合を切断できる窒素版の反応が2つの研究グループから別々に明らかにされた[1]。一つ目は、ヨウ素酸化剤とカルバミン酸アンモニウムを用い、直鎖のアルケンをニトリルに、分岐アルケンをアミジンに変換する反応である[2]。この反応開発を担当していた博士課程の学生は、1969年の含窒素三員環をカルボニル化合物に変換する論文に出会った。そこで彼は、アルケンから環をつくることができればさらに分解生成物に至ると考え、実際に実験を重ねたところ、その方法にたどり着いた。二つ目は、アジド反応剤、分子状酸素、ゼオライト担持銅触媒を用いて、アルケンをニトリルとケトンに変換する反応である[3]。この系は、10年以上前にこの研究チームが展開した結果がもとになっている[4]。そこでは有機ラジカル触媒を用いて基本的には同じ変換反応を達成していた。今回、このバージョンをアップさせ、より幅広いスコープと再利用できる触媒を提案した。二つの系に共通する特徴は天然物への応用である。例えば前者の系でのテルペンのキラルアミジンへの変換は、価値のあるキラル含窒素化合物へのアクセスを提供している。

 アルケンに、窒素を預けるん。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March 24, p. 4.

[2] DOI:10.1126/science.adq4980

[3] DOI: 10.1126/science.adq891

[4] DOI: 10.1021/ja403824y

25.4.15

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1945年8月9日

 当時の満州国にソ連軍が攻めてきた。程なく終戦を迎えたものの、満州国に陣を張っていた日本軍兵士の多くが捕虜収容所に連行された。その中の一人が山本幡男さんだった。冬は厳寒の収容所での悲惨な日々の中、山本さんは通訳として、時にはソ連軍の将校とも対峙して罰を受けた。それでも日本人捕虜には「いつか帰国することができる」というメッセージを送り、それもあって捕虜にも笑顔が戻り、「人でなし」と呼ばれるようなこともした昔の上司も徐々に本来の自分を取り戻す。そんな中、過酷な生活が山本さんの身体を蝕んでいく。山本さんが大きな病院で診察してもらえることを掲げて捕虜たちがストライキを敢行した結果、診察を受けることができたものの末期の咽頭癌であることがわかった。ここで捕虜たちは山本さんに遺書を書くことを勧めた。ただし文書はスパイ行為であるとみなされて取り上げられる。その前に山本さんの書き上げた遺書を4人で分担して記憶することにした。完璧に記憶。数年後帰国が叶った。4人それぞれが帰国した遺書を文章にし、山本一家を訪ねて暗記した文言を伝える中で、山本さんの声が重なっていた[1]。その一部:「最後に勝つものは、道義であり、誠であり、真心である。人の世話にはならず、人に対する世話は進んでせよ。無意味な虚勢はよせ。立身出世などどうでもいい。最後に勝つものは道義だぞ・・・健康に幸福に生きてくれ。長生きしておくれ」[2]。 1954年に実際に書かれた内容である。

 遺書、一生が集約されている。

[1] 二宮和也主演、瀬々敬久監督「ラーゲルより愛をこめて」(2022)。

[2] 子供たちへこの遺書を渡して読み上げた新谷さんの言葉「読めましたか?僕の字」もグッと来てしまった。捕虜生活の中で、読み書きを知らなかった新谷さんは山本さんからそれを学んでいた。

25.4.13

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聖パトリックの祝日である

 3月17日の朝、熟練した配管工の集まり(ローカル130)が川を緑色に染める[1]。この川を染める伝統は1962年に遡る。配管工たちは水漏れを検知するために染料を使っていた。ある日染料を使って作業をしていた配管工の一人が白い仕事着の上にそれをこぼしたところ、それがアイリッシュグリーンに変化した。組合のマネージャーがこの結果を見て、シカゴ市の市長に、聖パトリックの祝日にシカゴ川を緑色に染めることを提案した。それ以来ローカル130は、染料が何であるかを公表することは拒否している。聞けば、それは環境に優しく数時間後には消失するとだけ答えるだろう。祝日のパーレドを担当する委員会によれば、染料はオレンジ色の粉として川に流され、自分たちに馴染みのある不凍液の色合いに変化するらしい。ローカル130はこの変換をレプラカーンの手品[2]であるとしている。それに対してこのタイプの染料はキサンテンがもととなるオレンジ固体で、そのうちフルオレセインベースであると類推された。このオレンジ色の粉はアルカリ条件では緑色に変化する。12月のシカゴ川のpHは7.7だった。実際に使われた染料は、炭化水素が主なフルオレセインよりも水溶性の高いある種のフルオレセインの塩である可能性が高い。科学者は、地下水が川のどこに流れ出るのかを特定するために、そのナトリウム塩を使っている。

 キサンテン、基本やてん。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March 17, p. 56.

[2] レプラカーン:アイルランドの伝説の妖精

25.4.13

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生物医学者らは

 年間およそ100万論文を発表しているが、これらの多く(およそ90%)を再現することができない。これに対して思い切った対応が必要であると薬理学者のCsaba Szabo氏は「Unreliable」という本で指摘している[1]。本の中では、再現性の欠如の原因について、過当競争や正直なミスから統計上の偽りや完璧な詐欺に至るまでを言及し、気がかりではあるものの説得力のある解説がなされている。さらにこれに対する即効性のある解決策はなく、教育ワークショップやチェックリストのような地道な努力は、ほとんど変化をもたらしていないとしている。加えて著者は新しい科学トレーニングプログラム、異なる資金配分方法、斬新な出版システム、詐欺に対するより重い刑事罰などによって、システム全体を徹底的に点検する必要があると述べている。「無駄を省き、科学をより効率的なものにする方法を考え出さなければいけない」としている。

再現性の欠如で、威厳もなくなります。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March 17, p. 20.

本のタイトル:Unreliable: Bias, Fraud, and the Reproducibility Crisis in Biomedical Research

25.4.12

 

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カンナビノイド受容体(CB1)を

 標的とする無痛覚の化合物を研究者らは長年探索してきた。ただそれらの化合物は一般に脳の中のCB1の中を循環するだけで、体内の知覚ニューロンの中のCB1には届かなかった。しかも多くのCB1標的分子は、痛みを抑える効果を得るためには多くの量を必要とする。その中研究者らは、体の中でのみCB1にバインドできるVIP36と呼ばれる化合物を設計した[1]。この化合物は精神活性の副作用が抑制されている。VIP36は、CB1アゴニストであるMDMB-フビナカと体内で陽電荷を帯びているグアニジウム基を有する末端とを連結させ、この電荷が血液脳関門を通過するのを妨げる。コンピューターによる研究でも、CB1の中の隠されたバインディングポケットが明らかにされた。バインディングポケットの中深くにアスパラギン酸塩が見つかり、それがグアニジウム基と塩橋相互作用していた。さらにこの相互作用が苦痛を我慢できるシグナル伝達を媒介しているらしい。

 カンナビノイド、わかんないど。

[1] Chemical & Engineering News 2025 March 17, p. 7.

DOI: 10.1038/s41586-025-08618-7

25.4.11

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