前生物的アミノ酸の発生

 についての通常の理論ではシステインについて説明することができていなかった。それに対して今回の新しい研究では、システインを含む化合物を導く前生物的な経路が提案された[1]。すなわちそれはセリンニトリルから始まる。最初にそれがチオ酢酸と反応し、ジアセチル化セリンニトリルを与える。4日後にそれは、アセチル化デヒドロアラニンニトリルに変換される。最後に硫化水素との反応でアセチルシステインを含む化合物に至る。さらにここで得られた化合物はペプチド連結反応を触媒することができる。中性pH水中で、アセチルシステインはアシルグリシンニトリルと全ての標準的なアミノ酸から単純なペプチドを形成する反応を触媒する。このシステインペプチドは、本来の触媒活性によって、非生物的環境における反応の優秀な触媒候補である。「今回の研究は、低分子有機触媒の可能性と、生化学の出現の中でチオールが注目されていること」さらに「もし生命がニトリルをベースにした化学を利用しているとしたら、ニトリルがあまりない生化学になぜシフトしたのかが不明確である」とコメントされている。システインが貢献し(ス)ているんです。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 16, p. 6.

DOI: 10.1126/ science.abd5680

20.12.2

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CAS

 Chemical Abstract Servicesは、ACSのディビジョンの一つであり、分子構造や特性、反応手順や条件を含む化学情報のデータベースも保持している。これらは、医薬品のような標的分子を導く合成段階を予測する過程である逆合成解析を実行できる機械学習を発展させるのに、コンピューター化学者にとって貴重なデータである。ただしCASの標準条項は、これらのデータを機械学習アルゴリズムトレーニングに使うことを禁止していた。その中今回CASはMITが拠点となるColeyグループにこれらのデータを使用することを許可した[1]。これによって数百万の反応のデータを収集することができる。研究チームはその成果とコンピューターコードは公表する予定である一方、基本的なトレーニングのデータは非公開である。なおMITはこのデータにアクセスするための経費は支払わない。ColeyグループではこれまでReaxysデータベースを使い、機械学習逆合成アルゴリズムの訓練を行なってきた。課題の一つは、例えば触媒反応を学習する際に、エントリーの1/5で触媒が特定されていないことがある。これによって間違ったことを学習し、反応は触媒なしで進行すると判定してしまう。もしCASのデータに一貫した注記があれば、このような問題は避けることができる。CASのデータ、貸し出しの方針が出た。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 16, p. 6.

20.12.1

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1,4-ジオキサン

 1863年初めて合成された[1]。この化合物大気に放出されて人が吸うとガンに罹患するリスクが高まる。それでも1,4-ジオキサンは屋外の大気中には、それほど長くはとどまらない。米国環境保護庁(EPA)によれば、1,4-ジオキサンの半減期は5時間未満である。それは光化学的に反応しヒドロキシルラジカルが発生してアルデヒドやケトンのような分解生成物に至る。一方それは高濃度でも水に完全に溶けて簡単には蒸発しない。この特性が1,4-ジオキサンを水から除去するのを困難にしている。例えば汚染された地下水は通常、吸い上げと処理(pump- and -treat)によって扱われ、その後塩素化溶媒や別の混入物質を除去するために、空気を吹き込むか粒状活性炭を通したろ過が行われて帯水層に戻される。がしかしこの方法は1,4-ジオキサンでは効果的に作用せず、エネルギー負荷のかかる先端的酸化過程すなわち紫外光照射による過酸化水素との反応を利用する。あるいは過酸化水素の代わりに次亜塩素酸を使う方法もある[2]。この他にも多くの対策が施されているが、1,4-ジオキサンの環境中への放出を停止させることが最も効果的である。これまで1,4-ジオキサンがたくさん広がっていた。奥さんにもお伝えを

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 18.

Ann. Chim. Phys. 1863, 67, 257; Ann. Chim. Phys. 1863, 69, 317.

[2] DOI: 10.1039/ D0EW00316F

20.11.30

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生物学的低分子は

 タンパク質とは違って、テンプレートが誘導するプロセスで合成されない。そのため代謝物成分であるそれら低分子全てを同定することは難しい。その中研究者らはこれまで知られていない代謝物の同定をより簡単にする濃縮法を報告した。この方法、すなわち濃縮によって代謝作用の詳細を解明する方法(DIMEN)では、クリック化学を使ってサンプルからの代謝物を捕捉するため、アルキンで修飾した低分子とアジド吉草酸リンカーで修飾した固体担持を使う。アルキンで修飾した低分子の全ての代謝生成物は、アジド固体担持との反応で抽出されて、その後質量分析で開裂される。物理的に濃縮すると複雑な代謝物混合物から標的の代謝物を分けることができて、そこに分析のためにレポーターイオンをつけることができる。ここではある種の線虫が生産するシグナル分子であるアスカロシドが注目された。線虫にアルキン修飾のアスカロシドを与えたところ、数百のこれまでには知られていなかった代謝物を同定することができた。代謝物は台車に乗せたのでしょうか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 11.

DOI: 10.1021/jacs.0c06877

20.11.29

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ローマ帝政時代

 貝紫色(Tyrian purple)は金よりも高価だった。珍しい王家の染料は、ある種の巻貝から苦労して抽出されていた。ただし軟体動物10000ほどから1 g程度の染料しか得られない。貝紫色の主な化学成分は6,6’-ジブロモインジゴで、これは臭素や臭化水素酸を必要とするために工業的スケールで合成することはできず、また臭素の選択的導入も課題だった。その中研究者らは生化学的な手法で、大腸菌を上手くおだてて6,6’-ジブロモインジゴを生産することに成功した[1]。ハロゲナーゼを含む三つの酵素を操作しバクテリアに注入した。これらの酵素は、トリプトファンを酸素、臭化ナトリウム、補酵素を使って三段階で6,6’-ジブロモインジゴに変換した。紫色を生産する大腸菌を遠心分離器で圧縮して得られたペレットで、ウールなどの織物に特徴的な色相を付与できた。異なるハロゲナーゼ酵素を同様に使うと、異なる色を呈する5,5’-ジブロモや6,6’-ジクロロインジゴも導くことができ、これらも染料として利用できる。インジゴは染料、いいちこは焼酎、ではミジンコは?

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 11.

DOI: 10.1038/s41589-020-00684-4

20.11.28

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いずれ不足する

 肥料のための重要な元素であるリンを確保する新たな方法として、どこにでもあるおしっこやうんちが着目されている。その中研究者らは人工尿から単純な電気化学的な手法でリン原子を抽出できることを示した[1]。これはリン原子を沈殿させるためにマグネシウムを使う以前の方法より安価である。実験では、負に帯電したリンと塩素イオンをアノードチャンバーに入れた。そのチャンバーはイオン交換膜を介してもう一つのチャンバーと隣合わせである。ここに尿を入れて、適切な電流密度をかけると、リンイオンは中性のリン酸(H3PO4)に変化し塩素イオンは負のままだった。電流を逆に流すと、塩素イオンはもう一つのチャンバーに移動し、もとのチャンバーは肥料生産に適したリンが豊富な溶液になった。なおこの技術を、集積された排水処理施設に適用した場合には、汚泥からおいでになる尿が対象になるため実用的ではない。そのため公衆にある小便器にたまる尿を用いる必要がある。尿、妙な話じゃないよ。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 11.

DOI: 10.1021/ acsestwater.0c00065

20.11.27

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還元的脱離

 遷移金属触媒反応の鍵となる素過程の一つである。通常三つの元素が関わる結合開裂と結合形成を含む機構が考えられている。その中今回、同じ分子の中での結合開裂と結合生成をPdが触媒する反応の還元的脱離の詳細が調べられた[1]。その結果この反応の遷移状態は七中心還元的脱離を含んでいた。実験的には難しい遷移状態をコンピューター研究によって解明し、ペリ環状反応のような七つの原子が関わる遷移状態を導いている。ここではPdのd軌道が遷移状態の芳香族性を担保している。さらにこれによって七原子全体に広がった軌道が共役し安定性が向上している。またPdのd軌道の配置のために、芳香族性は、通常の構造をとることはできず、途中でねじれたメビウス系のような形をしている。研究者らは電子の動きを示す曲がった矢印を使ってもこの反応機構も説明している。今回の成果では、有機金属反応の中の重要な動きを、本格的な量子化学を用いて明らかにし、馴染みのある直感的概念を用いてモデルが構築されている。還元的脱離に感激的だっ。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 10.

DOI: 10.1021/jacs.0c09575

20.11.26

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ドライアイス不足が

 COVID-19ワクチン輸送の障害になるかもしれない。モデルナのワクチンは-20 °Cで保存・運搬する必要があるが、これは通常の冷蔵庫で可能である。それに対してファイザー・BioNTechワクチンは-70 °Cの保存であり、これにはドライアイスが最適である。ドライアイスは、液体二酸化炭素を圧縮・冷却して製造される。ドライアイスの需要は米国のCO2需要のおよそ20%であるが、問題はCO2の供給不足である。米国の大抵のCO2は、エタノールあるいはアンモニア合成のプロセスから捕捉されるが、これらの生産が現在低下している。米国でのアンモニアの価格低下が工場閉鎖をもたらし、燃料エタノールの需要も小さく、多くの工場が停止した状態である。このような状況の中でドライアイスの需要は冷凍食品の宅配の増加によって伸びている。そこでCO2捕捉の方法として、巨大な熱システムや埋め立てや焼却炉からの回収は良い機会であるものの、その経費が課題である。一方でCO2製造会社は、生産を2倍に、貯蔵設備を3倍にして需要を満たそうとしている。どえらい安いドライアイス、供給できますように。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 23, p. 10.

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スピドロイン

 と呼ばれる繊維を作るタンパク質は、クモの絹糸膜の中では液体として存在する一方で、絹が放出されると直ちに固体になる。しかもそれはナノフィブリルな高度に配列した階層構造である。今回この変化が何によってもたらされるのかが解明された[1]。すなわち溶解したタンパク質が一時的に液滴として凝縮されるが、リン酸やpH勾配を含む化学的な合図に呼応して変化する、いわゆる液液層分離(LLPS)と呼ばれる現象による変化である。リン酸の添加によってLLPSが引き起こされて、タンパク質はpH5で固化し自己集合の後、ナノフィブリルに変化する。研究者らはさらにクモから直接採取した濃縮スピドロインタンパク質から、これらの化学的な合図を組合せて10 cmの長さの絹繊維を作成することにも成功した。得られた繊維を伸ばすと、材料はβ-シートと呼ばれる特徴的なタンパク質構造を形成した。LLPSによるスピドロインの凝縮は、アルツハイマー病のような神経変性疾患を持つ人の脳の中のタンパク質の凝縮とも関連して興味が持たれる。液体スピドロインの固化、スピード感もあって高感度です。

 この繊維、那田蜘蛛山[2]にもあるのでしょうか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 10.

DOI: 10.1126/sciadv. abb6030

[2] 吾峠呼世晴「鬼滅の刃」コミック4–6巻

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フェリンガ研究室で

 これまで合成されてきた分子モーターは紫外光あるいは青色光で駆動していた。それに対して今回の分子モーターは、共有結合で連結したアンテナが近赤外光からエネルギーを吸収して回転する[1]。この光はより安全であるばかりではなくて、より深い細胞組織に浸透することができる。新しい分子モーターは近赤外光の二光子によってアンテナが励起されると回転する。その励起からの共鳴エネルギー移動が二重結合の異性化を促し、さらに分子が回転する。このシステムを可能にするためには、モーターとアンテナのエネルギーレベルがお互いに合っていることやこれらの部位に連結しているリンカーが分子の動きと干渉しないことを確かめなくてはいけない。なおここでの近赤外光による二光子励起を利用するというアイデアはエレガントで、さらにより速いエネルギー移動ができるアンテナが開発されることも期待されている。フェリンガ先生自身は、この分子モーターを、ガン細胞を破壊するための小さなドリルである幹細胞の特性に影響し得る表面のパーツとして使いたいと述べている。分子モーター、しもた〜、先をこされたかな。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 November 9, p. 8.

DOI: 10.1126/sciadv.abb6165

20.11.23

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