沈没した船は

 人が制作した無生物の作品のようであるものの、それは微生物群に由来する動的水界生態系のホストである。今回研究者らは、同じ沈没船でも多くの部位で微生物群は複雑であることを、初めて明らかにした[1]。ノースキャロライナ海岸の浅瀬から、博士も混じって、目に見える腐食しているものの人の手が加えられていない自然の物質のサンプルが集められた。その結果、これらのサンプルを集めた位置によって、微生物群が明らかに異なっていた。これは体の中で微生物が好む特定の場所があることと同様である。沈没船の中で微生物は自分自身にとって最も適した場所を選んでいる。さらに沈没船に直接繋がっている新しい鉄酸化菌が初めて同定された。その菌には既知の菌[2]の新種も含む。これらの菌は鉄が豊富な船体の生物腐食を行うとともに、ゲノム分析によれば窒素や炭素固定も行う。これによって菌は別の有機体を呼び寄せて、人工の岩礁のような持続可能なエコシステムを形成する一助になっている可能性がある。この洞察は、水面下の考古学的な場所を保存する戦略へのヒントになり得る。沈没船研究から、ボツにせん成果が。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 31, p. 9.

DOI: 10.3389/fmicb.2020.01897

[2] マリプロフンドゥス・フェッロオクシュダンス:グラム陰性微好気性の鉄酸化細菌

20.9.22

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地球に落ちた

 頑火あるいは球粒 (EC) 隕石の大きな塊の化学組成は現在の地球のそれと類似である。ただし宇宙空間をさまよい太陽の強い放射を受ける中、これらの岩は氷水を失っているはずである。それでも地球は表面や内部でも水が豊かであることから、水がどこから来たか謎だった。ある説では、太陽系外からたどり着いた彗星や炭素質コンドライトが乾いた地球に水をもたらしたとされている。その中今回13のEC隕石の分析が行われ、EC隕石は地球の全ての水を構成するのに十分な水素を含んでいることがわかった[1]。この物質から地球ができた時、それに含まれる水素が酸素と結合して水が発生したことがここでは提唱されている。さらに隕石の中の水素と重水素の比が地球の内部にある水と一致することもわかった。それでも水が他からやってきたことも除外はされていない。いくつかのEC隕石由来の水は熱かった原始地球で失われた可能性がある。また同位体比は、表面の水がEC隕石のそれとは違っている場合もある。どちらにしてもEC隕石がどのように水素を貯蔵していたのかは次の疑問の一つである。それはともかくEC隕石と地球の水、姻戚関係でしょうか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 31, p. 7.

DOI: 10.1126/science. aba1948

20.9.21

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人の血液型と

 COVID-19が重症化したり死亡することとの間にはほとんど相関がないことが今回示された[1]。以前の遺伝学的研究では[2]、O型の血液はCOVID-19を防ぐことが示されていた。それに対して今回の論文では、2月中旬から5月中旬までの間にCOVID-19に罹患した957人の患者さんと、他の疾患で入院している患者さんの血液型を比較した結果が掲載されている。すなわちこれら二つのグループには、目立った違いは見られなかった。またこのことは同じ病院から公開された別の論文の結論とも一致していた[3]。この結論の違いは、以前の論文では、COVID-19患者さんと比較する対象が適切でなかったのではないかと指摘されている。さらにCOVID-19と血液型の間の研究が行われていて、その間のリンクはあまりないことも述べられている。広範な社会への広がりや、基本的な健康格差の中でも、COVID-19における血液型の役割は、別のリスクファクターと比べても小さいように思われる。O型血液でも、強気になってはいけません。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 31, p. 6.

DOI: 10.1111/trf.15946

[2] DOI: 10.1056/NEJ- Moa2020283、2020.6.19 村井君のブログ

[3] DOI: 10.1007/ s00277-020-04169-1

20.9.20

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オレアンドリンは

 南米や他の地域の造園にある有毒な低木であるキョウチクトウに存在する糖鎖を含む化合物である。この植物を食べると吐き気、嘔吐、不整脈を引き起こし、時に死に至る。オレアンドリンは、キョウチクトウの根から花までの至るところにあって、体内に入るとナトリウムやカリウムポンプを抑制する。米国のFDAは、オレアンドリンやキョウチクトウからの抽出物をいかなる疾病の治療のためにも承認していない。そんな中7月に、オレアンドリンがSARS-CoV-2を打ちのめすことができるというプレプリントが公開された[1]。この論文は今のところ他の科学者によって吟味されていない。そのプレプリントでは、試験管の中ではガンが引き起こすレトロウイルス(RNAウイルス)の別の細胞への拡大をブロックすることができるオレアンドリンの可能性が言及されている。ただしプレプリントから人への投与までには、人の細胞や動物での実験を含む多くの研究や、医師によってモニターされる必要である。そんな中トランプ大統領も言及した治療の可能性を含む誇大な宣伝のために、人が個人的にキョウチクトウで治療してみるという境地になることが心配されている。この植物を食べたり、植物からの煙を吸ったりしてはいけない。キョウチクトウ、こん畜生。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 31, p. 6.

DOI: 10.1101/2020.07.15.203489

20.9.19

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世界中で数百万人の人が

 飲料水媒介の病気で亡くなっている。これは手頃で実用的な消毒の方法がないためである。この課題を解決するために東華大学の研究者らは、バクテリアを殺し、目詰まりを防ぐことができるシリカエアロゲルからなる強くて柔軟なフィルターを開発した[1]。またその消毒特性の再生は、漂白液に浸すだけで行うことができる。すなわちシリカナノ粒子が散りばめられたシリカナノエアロゲルがつくられて、これがN-ハロアミン官能基で覆われた。ついでこのエアロゲルを希薄な漂白液に浸しN-ハロアミン官能基を殺菌性のN-クロラミンに変換した。得られたエアロゲルは水中の99.9999%の大腸菌を殺し、市販の濾過膜の100倍の流速を保っていた。ファイバーの超疎水性表面の薄い水層がバクテリアの粘着を防いでおり、バクテリアがエアロゲルを汚染することなく素早く外に流れ出ていた。研究者の一人は、このエアロゲルの製造方法は、工業的なスケールでもかなり単純な方法であると述べている。このエアロゲル、え〜やろ。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 24, p. 9.

DOI: 10.1021/ acsnano.0c03793

20.9.18

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大西洋サケの筋肉は

 哺乳類のそれと違って温度が10 °C以下になっても柔軟性が保持されている。これは筋肉収縮に含まれるタンパク質であるトロポミオシンの違いであることがわかった[1]。しかも哺乳類とサケ類ではアミノ酸一つが違うだけだった。筋肉が適切に伸縮するためにはトロポミオシンは配座柔軟性と別の筋肉タンパク質と相互作用できる能力を維持しなくてはならない。哺乳類のトロポミオシンは温度が下がると硬くなって標的にバインドすることも難しくなる。一方サケのタンパク質では、哺乳類のそれの77番目にある陽電荷を有するリシンが中性のトレオニンに置き換わっていて、これがトロポミオシン間の静電相互作用を中断させる。哺乳類の体温でこの入れ替えがあれば安定性や機能を失ってしまう。一方でサケでは、不安定化が温度低下によって引き起こされる硬直を防ぎ、サケが極寒の水の中を泳ぎ回るのを可能にしている。トロポミオシン、神妙です。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 24, p. 8.

DOI: 10.1021/acs.biochem.0c00416

20.9.17

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新しいJACSの編集委員長に

 E. Carreira先生が就任し、2021年1月からそのチームが始動。P. Stang先生の後を引き継ぐことになる[1]。先生は、キューバ生まれでスペインと米国で暮らし、今はスイスに落ち着いている。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で学士、ハーバード大学でPh.D.を取得した。1992年カリフォルニア工科大学に着任し1998年スイス連邦工科大学に移籍した。先生は最初のスペイン系アメリカ人の委員長で、また米国外で住む初めての委員長でもある。6名の新しい編集長もアナウンスされている。ペンシルバニア大学J. Francisco先生、理化学研究所侯 召民先生、マックス・プランク研究所とスイス連邦工科大学ローザンヌを兼務するK. Johnsson先生、ミシガン大学M. Sanford先生、テキサスT&M大学K. Wooley先生の5名と6人目は中国を拠点とする先生で年末に発表される予定である。Carreira先生の就任に関連して、先生が1996年に書いた手紙、すなわち「当時の研究室メンバーには長時間働くことを期待する」という内容について論争が再燃した。これについて9月5日先生は「あの手紙については後悔しており、現在の指導者としてのスタンスを反映していない。・・・自分自身はこの業界で、研究室であれジャーナルであれ、持続可能で確かな文化的な転換を促進する覚悟である」と発信している。委員長、今は緊張しているでしょうか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 September 14, p. 35.

20.9.16

 

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蓄電池には

 二つの電極とその間に電解液がある。その中表面積の大きな電極を作成していた研究者らはレンガに触発された。これまで研究者らは鉄イオンを用いた重合反応で調製したポリマーナノファイバーを電極に用いていたが、最近は重合の鉄源としてサビに注目していた。天然にある赤い色素は酸化鉄であり、レンガにもそれが含まれる。そこでレンガの中の酸化鉄を用いることにした。まず塩酸蒸気を160 °Cでレンガの孔に入れて酸化鉄を溶かして鉄イオンを放出させた。ついでモノマー蒸気を注入すると鉄イオン存在下、重合反応が起こり、導電性ナノファイバーが出来上がった。蓄電池を完成させるために二つのレンガ電極とゲル電解液を組合せ、最後に防水加工したエポキシコーティングで素子を包み込んだ。素子は3Wの電力を供給し幅広い温度範囲で利用できた。このエネルギー貯蔵レンガは、装飾壁に埋め込むのに十分な強度も有している。レンガが足れへんが という日が近いかも。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 24, p. 7.

DOI: 10.1038/s41467-020-17708-1

20.9.15

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分子結び目を導く方法は

 小さな部品の自己集合に依存し、その結果高い対称性の結びができる。ただしおむすびはできない。その中今回対称性を欠いた複雑な結び目が合成された[1]。2,6-ピリジンジカルボン酸アミド(pdc)と1,10-ジフェニルフェナントロリン(dpp)を使って分子が設計された。ルテチウム(Lu)と銅を加えるかLuのみを加えることによって、靴ひもを結ぶが如く、違った結び目が導かれる。一つ目のタイプの結び目では、より糸の中でルテチウムイオンが三つのpdc部分の配位を受けて総角結びが形成される。この対称性のある結び目はこれまでにも別の方法で合成されていた。一方で二番目の結び目は、はじめに銅が二つのdppからの配位を受けてループを形成する。ついでLuを加えるとそれがpdcにバインドしてループをくぐる。さらに末端が閉環メタセシス反応で連結し結び目は金属を放出しても残ったままである。銅-dpp錯体の掌性が、遷移金属不斉触媒のようにLuが絡みの形成を方向づけている。これによって非対称な三回ひねり結びが達成されている。結び目、ルテチウムに注文してできました。

[1] Chemical & Engineering News 2020 September 7, p. 7.

DOI: 10.1038/ s41586-020-2614-0

molecular knots:分子結び目、瀬川さん(https://segawa.ims.ac.jp)のアドバイスです。

20.9.14

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微小な海洋生物が生産する

 揮発性有機化合物が雲の種を生み出し、気候に影響する可能性が考えられてきた。その中すでに植物性プランクトンよりもむしろ微生物が、大洋からの揮発性有機化合物とりわけジメチル硫酸(DMS)の放出に寄与していることが示されていた。ただしこれを実験的に検証するのはかなり挑戦的な課題である。その中研究者らは10年あまり、海洋波シミュレーターを使って、海、空、植物性プランクトンさらに微生物との化学的相互作用を検証してきた[1]。この完全に閉鎖されたシステムを利用すると、実験室で、実際の環境の迅速な化学反応を研究することが可能になる。長年の研究ではここで雲のタネになるエアロゾルが作られることはなかった。さらに微生物の濃度がどれ程大きくてもエアロゾルは形成せず、大気での人の影響を反映させた場合だけそれが形成されることがわかった。今回研究者らは、ヒドロキシラジカルが気体状のDMSを酸化し、硫酸エアロゾルが形成することを明らかにした。これによって雲の形成を促すこともできた。雲形成、いくつもあるのでしょうか。

[1] Chemical & Engineering News, 2020 August 24, p. 6.

20.9.13

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