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2009年9月

土星の輪っか、わかりますか

 土星には、60以上も衛星があるという、そのひとつタイタン、大気の98.4%が窒素、1.6%がメタンで、微量成分として様々な炭化水素(エタン、アセチレン、ジアセチレンなど)を含む。液体メタンが雨となり、川も湖もできる。がしかし人間には、海メタン浴はまだできない。そのタイタンには、オレンジ色のもやがかかっている。炭化水素らしい。エチニルラジカルがジアセチレンと反応し、ポリイントリアセチレンが生成している[1]。ということをタイタン類似の超冷条件下で実験を行い、類推している。このポリイン化学は、タイタンの地表600~800kmのところで起こり、900km以上では、陰電荷の化学、600 km以下では、ニトリルとポリ環状芳香族炭化水素が鍵であるらしい。土星の話だからと言って「どうせい」ということはないが、「有機化学は宇宙の謎にもアプローチできるのよ」とセーラーサターン[2]にも伝えたい。

[1] Chemical & Engineering News September 21, 2009, p. 10.
[2] 美少女戦士セーラームーンの原作者、武内直子さんは、薬学部出身なので、きっとわかっていただけるだろう。ちなみに彼女の短編漫画「いつもいっしょね」には、アニリン、アセトアニリドという犬が登場するらしい。

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グリニャール先生、ご存知ですか。

 1900年グリニャールによって発見された反応、それから100年以上たった今も、年間500を超える論文などが発表されている。構造や会合状態についてはSeyferth先生のエッセイ[1]が、その発見と師弟の確執については、野老山先生が寄稿されている[2]。師の嫉妬に対して、「グリニャールが自身の成功に対する師の寄与を評価し変わらぬ尊敬の念をもって振舞ったので・・・」と記されていた。なかなか凡人にはできない。
 さてなにげに、You TubeでGrignardと入力したら、同名のグループシンガーに加えて、「Grignard reactionなにがし」というのがでてきた。英語で解説が始まる。実験器具を組み立てる方法、Southampton chemistsとある。窒素ラインをつなげる、還流冷却器に水のチューブをつなげる、窒素をバブルする速度、実験上の注意があってそこで終了。他にはハンドライティングで反応様式を説明しているもの、Grignard Reagent Songもあった。残念ながら歌詞がほとんど聞き取れない。The product is primary ••• magnesium •••みたいな感じ。元歌は、America the Beautiful であると記されている。保護メガネもせずに実験しているのもあるが、こりゃいかんよ。そのうち熱心な講義のビデオ(http://www.freelance-teacher.com/videos.htm)に出会う。freelance-teacher(フリーライターの先生版かな)らしい。このビデオを見るのは初めの二時間は無料だが、その後は一時間ごとに60ドルとある。有機化学を英語で学ぼうと思う人には至適である。

[1] Seyferth, D. Organometallics 2009, 28, 1598.
[2] 野老山喬、月刊化学9月号、30ページ (2009).
09.9.27

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寝る子は育つ

 愛知県の高校に講義に呼ばれた。大学側からは、出前講義、デリバリーレクチャー(デリレク)である。出前と言えば、うどん、ラーメン、丼もの、おすしくらいだったかと思う。そのうちピザが宅配になり、健康もデリバリーされるようになったらしい。
 内容は8月4日の化学への招待と、ほぼ同様である。ただ今回1時間15分いただいたので、少しふくらます。バラの話もする。「美しいものには棘がある」の代表ですねえ。世の中には、「美しくなくても、棘だけあるものもあるけど」と付け加える。大いに反応あり。赤いバラの色成分は、酸素原子が加わっただけで、青に変わる。まあまあ聞いてくれている様子。それから2、3分後、すでにお休みになっている生徒がいる。しかも一番前の席である。「どこでもすぐに寝ることができる」(誰とでも、ではない)は、大切な能力の一つである。もちろんこの能力には、寝ても安全であることが無意識に判断できる力が伴っていないと危うい。ちなみにお休みの彼、分子模型を使う頃には、目が輝いていた。
 岐阜へ戻る途中、降りるべき駅についても寝ていた高校生、何かの刺激にとっさに反応し、電車から降りていった。見事な身体さばきであった。
09.9.25

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プールのスイマーにどぎまぎ

 水泳競技も行われる25 mプール、一般市民に開放された休日に泳ぐ。すべてのレーンにコースロープがはったままである。開放すぐで水色の水面は静かで、入り込む日差しとも調和して、清涼感いっぱいである。女性スイマーが泳ぎを始めようとしていた。スピード感のあふれる泳ぎ、無駄のないフォーム体形、思わず、みとれてしまいそうだが、隣のレーンは避けてもうひとつ右のレーンで泳ぐ。自分が50 m泳ぐ間に、彼女は75 mほどは泳いでいる。なのでスタートラインで出会うことはまれである。それでも時には、レーンひとつをまたいで、おなじ位置になることもあった。そのとき彼女はゴーグル越しに、やたらこちらを気にしている様子。こちらの視線を気にしているのか。しばらくすると素早くスタートする。こんな機会が3回ほどあって、こちらの胸もドキドキしてきた。「青豆さんですか」と聞いてみようか。逆に「あなたのは大きい方」なんて聞かれたらこたえにつまる[1]。どちらにしても始まりが肝心である。化学反応同様、矢印を間違えると、できるものもできなくなる。と妄想が膨らむが、まあいいかとプールから出るとき、ふと右をみた。そこには、秒針つきの大きな時計があった。

[1]村上春樹著「1Q84」第五章に村井君が登場する。場所は赤坂のホテル
09.9.23

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おくりびと、天国と地獄、スラムダンク

 2008年9月17日、映画「おくりびと」を劇場でみた。邦画を劇場で見るのは、山口百恵主演「潮騒」以来か、2時間以上もこの空間で耐えられるのか、両隣は中年のおばさまである(あちらも、隣は中年のおっちゃんかと思っていたはずである)。ところが始まれば、引き込まれてしまった。山形の冬や春の情景が写しだされる。
 それから数ヶ月後、アメリカでも公開されたと聞いた「おくりびと」。発売されるDVDには、英語字幕もあるものと勝手に信じて入手した。家に届くまではわくわくしていた。がどこを捜しても英語字幕はない。今年一番がっかりしたこと、腹がたったことである。しかたがないのでさらに数ヶ月後、もう一度みる。もっくん扮する大悟の以下のセリフ、話題にはなっていないが鍵である。チェロを売ってしまった後のこと
 「人生最大の分岐点を迎えたつもりだったが、チェロを手放した途端、不思議と楽になった。今までしばられていたものから、すうっと開放された気がした。自分が夢だと信じていたものは、たぶん夢ではなかったのだ。」
 その後、山形に戻り、新聞広告を頼って、NKエージェント[1]に入社する。当初職業イメージも描けず、仕事内容もわからず、戸惑い、巻き込まれながらも、その職になじみ、誇りを持つ様になる。「短期間内に急速に成熟する」[2]という話型のひとつかな? 働くっていうことや学ぶっていうこと、きっとそういうことなんだよね。

[1]山崎努さんがそのNKエージェントの社長の役を演じておられる。46年前の黒澤明監督の映画「天国と地獄」では犯人役であった。こちらの映画の警視庁での捜査会議のシーンは、仲代達矢さんが主導するが、圧巻である。さらに身代金を犯人に渡すために現金入りの鞄を特急列車から放り出す。このシーンの撮影には、列車を借り切った。線路沿いの家が撮影の邪魔だということで、立ち退かせた。その鞄には燃えると特殊な色の煙がでる物質を埋め込む。焼却された場所がわかり、これを手がかりに犯人に迫る。最後に山崎努さんが・・・
[2]この話型のこと、スラムダンクの執筆者、井上雄彦さんについて、内田先生が書かれています。http://blog.tatsuru.com/2009/09/16_1011.php

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メタルも、そこにはみぇーたる

メタルも、そこにはみぇーたる
 「ケトンをトシルヒドラジンでトシルヒドラゾンにする。そこに炭酸カリウムを加え、さらに有機ホウ素化合物を入れるとトシルヒドラゾンに付加がおこり、ついで、脱窒素とともに炭化水素ができる。」という反応が掲載されている[1]。スペインでお世話になったバーレンガ先生のグループからの論文である。イミンへ有機金属化合物の付加も簡単ではないが、さらに脱窒素で、いわゆる還元を伴うアルキル化である。新しい独自の系である。
でタイトルを再び見た。Metal-free carbon-carbon •••とある。確かに遷移金属触媒はない。それでもホウ素は半金属(metalloid)だし、炭酸カリウムのカリウムはどうなんじゃと思ってしまう。系がすばらしい分、タイトルも考えなさいと、バーレンガ先生に苦情を言いたい。がこちらがおしかりをうけるかも。待てよ、日本語なので、バーレンガ先生には、ば〜れんがな?!

[1] J. Barluenga et al., Nature Chemistry, 2009, 1, 494.
09.9.21

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講座旅行、お世話さまでした。

 講座旅行ということで、飛鳥に行った。近鉄飛鳥駅で降りて散策、バスで石舞台古墳まで行く。蘇我馬子の墓らしい。1400年ほどまえの、死者を葬るための場であったに違いない。いまでは15 m四方の石とその下に空間がある。学生さんに「古墳を見て興奮した?」と言う。とりあえず笑ってもらえる。ついで「石を落とすと、ストーンと音がする。」こちらも、うけたがオリジナリティに自身がない。亀石にもご挨拶して、高松塚古墳の壁画館に入る。ここには亡くなった方、時には理不尽に逝ってしまわれた方の魂を葬る儀式の形が残っている。
 その夜、宴会、ドラエモンからカラオケが始まる。グレイを歌ったら「初めて聞いた」という学生もいて、ひょえ〜グレイも懐メロになったのかなと思う。皆さん「とりあえずの一曲くらい持ってもいいよね」
 さらに二次会、麻雀も始まる。参加希望の学生さんがいて一安心、これほど奥深いゲームはない。だからギャンブルにもなってしまう。基本は136個の牌、34種類である。この数が元素の数同様に絶妙である。その組合せで組み立てる。14牌で形(役)ができれば、いわゆる上がりのチャンスがある。そのために形をつくる機会の基本は17回である。最後の1牌は他の参加者に頼ることもできる。中には途中から他人の助けをしばしば借りる場合があるが、手に柔軟性がなくなり手詰まりになることもある。ここが面白い。午前3時村井君ダウン、・・・幹事さんお世話、ありがとうございました。

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9月16日の会見で感じたこと

 鳩山新総理の就任直後の会見を改めて見た。「・・・日本の歴史が変わるという身震いするような感激と、・・・この選挙、民主党あるいは友党は大きな戦いに勝利をいたしました。しかしこの勝利は民主党の勝利ではありません。今回の選挙の勝利者は、国民の皆様方が期待感を持って民主党などに1票を投じていただいた結果でございます。・・・(ここで脱官僚依存の話)・・・失敗することもあろうかと思います。国民の皆さんにもご寛容を願いたいと思っております。・・・国民の皆様方が辛抱強く新しい政権をお育て願えれば大変幸いに思っております。」と内容を短くまとめた。
 この話のつくりが村井君に、ケネディ大統領の就任演説を彷彿させた。で資料をひもとく。••• not a victory of party but a celebration of freedom(自由を祝うことであって、決して一政党の勝利ではない)が始めの部分にある。終わり近くに、ask not what your country can do for you;ask what you can do for your country. (国がなにをしてくれるかを期待することはやめて、国のために何ができるのかを考えよう)と国民へのお願いもある。
 これまで新総理の会見を聞いて、他の政治家のことが浮かんだのは初めてである。鳩山総理のこれからとか、ケネディ大統領の評価はしない。一般に新しいことを始める時、長になる時、「自分には尊敬すべき方がおられて、自分はその方に近づきたい」という思いで、ことを始める。その対局に「私がこの世の創始者だ。」「・・・○○党をぶっ壊す」というスタンスもあるが、後者のスタンスが長続きしない事例は多い[1]。
 新総理がそれを意識しているのかどうかはわからないが、新しいかたちかもしれないし、いずれ「鳩山総理演説集」という題名のCDなりDVDが販売されることを期待したい[2]。英訳題名は、a pigeon in the mountainか?

[1]一方で、ケネディ大統領の就任演説でも、オバマ大統領のそれも「先人たちがつくりあげたこの国を引き受ける(引き継ぐ)ということを主張する。さらにオバマ大統領は「それを将来に引き渡さなくてはならない。」ということを強く語っていた。
[2]ケネディ大統領の就任演説は、大学入試さらには大学院入試でもしばしば使われた。総理の演説が入試問題になる日がくるかもしれない。

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クモの巣で遊んでみようか

 クモの巣にひっかかると、ネバネバして気持ちよくない。このネバネバ成分のDNA配列を解明したグループの話[1]。納屋でクモを捕まえ、100ほどのクモの巣を集める。その表面から水溶性糖タンパク質を単離し、質量分析を行う。ムチンのようなタンパク質の配列と一致したとのことである。ムチンとは粘性タンパク質、納豆、山芋などに含まれるネバネバした物質とある。いずれクモの巣入り接着剤、健康食品など登場するかもしれない。天然成分配合である。

 そのクモの巣でゾウさんが遊ぶ。そんなファンタジックな番組があった。1987年頃、カナダで制作されたelephant show 顔の大きなゾウさんがクモの巣の上で遊ぶアニメから番組が始まった。
One elephant went out to play upon a spider's web one day. She has such enormous fan, that she calls for another elephant to come. Two elephants went out to play upon a spider's web one day. They have such enormous fan, that they call for every one to come.(ゾウさんがクモの巣の上で遊んでいたら、本当に楽しかったので、他のゾウさんも誘った。・・・)子供たちの琴線に触れる歌である。ぜひYouTubeで試聴を、クモも愛らしい。
09.9.19

[1] Chemical & Engineering News September 14, 2009, p. 28.

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ご教示いただき幸運です。

 「テルル化合物は、しいたけ臭のはず」を見ていただいて、ある先生からメールをいただきました。
・Teの次世代メモリはつい最近サンプル出荷されましてこれからが高密度化の勝負どころといった感じでしょう。
・smell like rosesな化合物は何なのでしょうか.
その部分の英文は
many of the synthons and products in organotellurium chemistry make their sulfur analogues smell like roses!である。
改めて先生は考えていただき、以下の日本語訳をいただきました。
もしかして
「有機テルル化学の多くの合成(構成)化合物や製品はそれらの硫黄同族体に引けを取らない」っていうsmellをいれた高級な?しゃれなのでは っておもいます!
**********
小学館 ランダムハウス 第二版
rose:
smell like a rose *米話*
なんら非難されるところがない
クリーンだ
come up smelling like a rose *米俗*
思わぬ幸運に巡り会う
*********
 深い洞察のメールに改めて感謝します。「有機テルル化合物の、期待すべき将来を暗示している」内容だと気づかず、the rose (美人)に、はぐらかされてしまって、シャレに気がつかなかった村井君は、大いに反省しています。
 改めてタイトルを確認 Tellurium in a twist このtwistもある種のテルル化合物がねじれていることと、twistの別の意味「意外な展開」の二つをかけているようである。Ibers先生すごい。
09.9.18

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テルル化合物は、シイタケ臭のはず

 B, Si, Xe, Tc, Feそして今回Te、Nature chemistry のin the elementに紹介されている元素である。どういう順番で選んでいるのか定かではない。もしかしたら100名を超える専門の方に一斉に依頼して、原稿が到着した順番かもしれない。でテルル(Te)。地球上では、金、白金や、いわゆる希土類元素より少ない。ハンガリーで1782年に発見された。金、銀、銅などを採掘すると一緒にでてくる。ビスマステルリドは熱電子冷却素子として、カドミウムテルリドは太陽光発電のパネルに利用されている。 有機テルル化合物の多くはバラの香りがする。ここで止まった。まさかバラの香りのはずがない。たとえばTHF中、BuLiに粉末テルルを加える。しばらくすると均一になり、未反応のテルル粉末はフラスコの底で回っている。これをそのまま水洗処理するとジブチルジテルリドを含んだテルル化合物が生成する。それはシイタケの香りである。インスタントお吸い物の成分に有機テルル化合物0.1 ppmと表示されていてもおかしくない。しかも純国産で。
 Nature Chemistryには椎茸の話はなかった。寄稿者は、ノースウエスタン大学Ibers先生。英語で椎茸はshiitake mushroomなので、英語圏では椎茸には固有の名前がない。有機テルル化合物を合成した際には、日本独自の香りも満喫したい。ただしその時は、期待の反応は失敗であることを暗示しているかもしれない。
09.9.14

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1970年の13

 多くの先生方から名詞をいただいた。「名詞をいただいた方には、もれなくプレゼント。・・・Chemistry Lettersの審査をお願いします。」と言う。「いいですよ。なんでも」と言う方ばかりでたのもしい。生まれは、1970年以降である。1970年、大阪万博、ビートルズ解散、「走れコータロー」がはやっていた。大昔かもしれない。
 その1970年4月11日13時13分、アポロ13号が、人類史上三度目の月面着陸を目指して、ヒューストンから飛び立つ。ひゅーう、ストンと落ちたわけではない。実際の話が映画になった[1]。しばらくは退屈である。がケヴィン・ベーコン(ジャック)がスイッチを入れると同時にトラブル発生、話は急展開・・・トム・ハンクス(ジム)が We just lost the moon.と言う。月面には着陸できない。・・・3人の乗組員を無事地球に帰還させることが目的になった。・・・Failure is not an option.とエド・ハリス(宇宙センターの責任者ジーン)が言う。月の裏側もさまよう、船内の二酸化炭素上昇をどうするか、地球に再突入するときのパワーをどう確保するか、船内は凍る。遂に地球に帰還する日、だが太平洋上から機影は見えない、交信も途絶えたま・・・ It’s good to see you again. 涙がこぼれる。
 ちなみに村井君のDVDは、あこがれの人に託したままである。

[1]ロン・ハワード監督「Apollo 13」(1995)。
09.9.13

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だから鉄腕「アトム」なのかな

 理論化学という分野がある。実験とは一線を画する。いくら計算しても臭いがわかるわけでもなし、なんだがその枠内では「つじつま」が合っているだけではと思われることもある。だが理論の世界、理論計算の世界について、ある先生に教わった言葉にヒントを得た。理論計算をする場合には、すべての前提条件を取り去った系をまず考える。次にノイズを加えていく。どのノイズを加えた時が実際の系に一番近いのかを検証する。もっとも実際の系に近い結果を引き出したノイズが、影響力の強いものであると類推することができる。始めからごちゃごちゃした系を計算して、それに新たなノイズを加えても、なにがなんだかわからない。
 いわば世間にある教育に対する議論のようなものである。現状の「ある部分の弱点を抽出して、論を始めて」も、その現状には他の要素もたくさんあって相互の連関を見極めることは簡単ではない。どんな場面でも陥る展開である。とはいえ実際には、すべての邪念やノイズを取り払ったところからスタートすることはできない。
 その対局に理論がある。純なものから仮説を立てて、自分が立てた問いを見据えようとする。文学や漫画などの創作活動も、困難な問いに対して大胆なアプローチができる。先の「すべての前提条件を取り去った系」で思い出した。内田先生の書の一節。以下「鉄腕アトムの話」を読む[1]。
鉄腕アトム』の全作を貫くテーマは「人間性とは何か?」という問いである。・・・この困難な問いに答えるために、手塚はなんと「人間ならざるもの」を主人公に据えたのである。(その次の部分は、村井君の要約で:アトムを造った天満博士に、アトムは捨てられるという最悪の状況から)いったい何を足がかりとして自分が存在することの意味と尊厳を奪還してゆくことができるのか?手塚はそう問いを立てたのである。
 ふつうの人間に保証されているはずの基礎的なリソースをすべてそぎ落としたあとになお「残るもの」[2]があり、それを拠点として人間がおのれの存在理由を構築できることがあるとすれば、それこそが人間性を担保する「最後のもの」に違いない。それは何か。

 この後、核心にせまる。ぜひ一読を、立ち読みでもよい

[1] 内田樹著「街場の現代思想」文春文庫、p. 230
[2] だからアトムなのか、と気がついた。Atomには、「分割できない」という意味がある。
09.9.10

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クロミズムだよ

 あるものの色などが、なにか刺激を加えることで、変化したりもとにもどったりすることをクロミズムという。専門的には分子の電子状態の変化がもとで起こる。一方でこの現象そのものが商品になっている。お風呂に一緒に入ると色が変わるお人形さんと遊んだ人もいるだろう。村井君の趣味は水遊びなので、今でもお風呂で「あひるを浮かべて」と思った人もいるかもしれないが、遠い昔にやめた。
話もどしてクロミズム、自動車用塗料もある。これらは熱が刺激になるのでサーモクロミズム、他に光や電気の刺激によるものもある。さらに溶媒の蒸気が刺激になって色が変化し、蒸気を抜けばもとに戻る。これはベイポクロミズムと呼ばれている。これについて加藤先生(北海道大学)の金属錯体を使った化合物、しかも発光する系についての講演を拝聴した。簡単に入手できる化合物を巧く組合せて、溶媒蒸気で発光色が変わる系をつくられている。美しさに魅了された。
 そのうち加齢臭をキャッチすると色が変化して、「気難しい上司が来た」みたいなセンサーができるかもしれない。あこがれの人が現れて、思わず赤くなってしまうのは、ときめきクロミズムそれともラブクロミズムか
09.9.9

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海水浴に行きませんか。

 名古屋から紀伊勝浦に向かう。津から和歌山までは紀勢本線[1]である。国鉄時代についた路線名であるが、JRになって以降、新宮より東はJR東海、西は、JR西日本、駅名のボードがオレンジから青色に変わる。紀伊長島を過ぎたあたりから、左手には、海が見え始める。入江に、漁船が見える。海は真っ青である。太平洋である。尾鷲も過ぎる。しばらくすると「・・・美しい新鹿(あたしか)海水浴場が左手に・・・」と列車内に、テロップが流れる。環境庁が「快水浴場100選」に選んだ場所である。三重県からは二カ所選ばれた。岐阜県からはゼロである。愛知県からもゼロであるがこの同じゼロの意味は全く異なる。この美しい海岸線、新鹿も今はほとんど「誰もいない海」であるが、その分、海岸に打ち寄せる波、小さく入り組んだ海辺が緑に光る。村井君をノスタルジックにさせる。
 この紀勢本線沿いには、海水浴場が多い。少年の頃は、白浜・白良浜で遊んだ。夏の家族旅行である。その時は、和歌山側から、紀勢本線を走った。まだ単線であったと思う。ディーゼル車の独特のエンジン音と燃料が燃える臭いも思い出される。
 大学の夏休みが7月半ば頃から始まっていた時代、大学生はこぞって、海水浴に行った。若狭へも出向いた。朝方、水晶浜まで車で走り、一日原子力発電所を見ながら泳いでヘトヘトで帰ってきていた。若狭の海では8月10日以降は泳ぎづらい、クラゲが登場する。クラゲが好きな彼女と一緒ならばよいかもしれない[2]。そもそもいったい誰が夏休みを8月、9月にしたのか、しかもこの期間に補講も多くなってしまった。「大学生には海水浴をさせるな」という意図がどこかにあるのか。それにもめげず海水浴に行ってみよう。「新鹿に行くのは、あたしか」と感じる人、ここでは8月31日まで泳げる。

[1]紀勢本線自体は、亀山—和歌山間である。
[2]村上春樹著「ねじまき鳥クロニクル」(第2部、新潮文庫、p. 105)の僕(岡田トオル)は、クラゲに魅入られた女性と結婚する。
09.9.7

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朝から刺激的な日

 午前7時前、名古屋に向かうJR快速に乗る。早朝もあってか、香粧品、整髪料成分の臭いがきつい。なにせ化粧してすぐである。有機イオウ、セレン系の臭いに耐性がある分、エステルやアルコール系の臭いには敏感なのかも知れない。作業環境測定をしなくてはいけない、電車の中にもドラフトの設置を要求したい、スズメバチがいれば、ミツバチのフェロモンと間違えられて襲われるで−でも整髪料に縁のない村井君はだいじょうぶ、などと考えているうちに尾張一宮に到着。どかどかと乗客が入ってくる。予想だにしなかった。身体が20 ° ほど傾いたままである。つり革を吊っている棒を両手でつかむ。身体は無防備である。前のお姉様は、30 cm四方の場所で、バッグからスティックを取り出す。かすかな化合物の臭い、それで、まつ毛の整備にかかる。下が終わったら、別のスティックを取り出して上のまつ毛、さらに眉毛と、慣れた手つきである。それでも見る限り変化はない。ただ手を動かすたびに、彼女の肘は村井君のみぞおちを圧迫する。痛みを忘れるために、右の男性の雑誌に目をやる。「王将、2ヶ月連続増収、経営戦略・・・」みたいな記事である。それでもみぞおちがうずく。少し身体を斜めにしようとすると、前の女性がちらりをこちらをみる。「その空間は私の場所なの」と語っているようである。枇杷島駅の看板が目に入る。あと数分か、名古屋駅に接近すると、電車は減速する。「もっとお仕置きを受けていなさい」と言われているようである。やっと着いた。扉が開く。淡々と人は開放系に移動する。ふ〜おわりや。
09.9.6

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新たなリン化合物が主役に

「光学活性なホスホニウム塩に、フェノール、フェノキシドイオンを混ぜると、自己集合し、これがアシルアニオン等価体の不斉共役付加を触媒する」という大井先生、浦口さん、上木さん(名古屋大学)の研究成果が掲載されていた[1]。原著はscienceだが、Webでもまだ見ることができない。大井先生に「拝見しましたよ」というメールをお送りしたら、science Expressとして公開されているとのことで、pdfをお送りいただいた。論文は、Nature harnesses weak interaction.[2]で始まる。C&E Newsには、「超分子有機触媒を発見するコンビナトリアル戦略の方向性を示す」と論評されている。
 ひと月まえには、俣野先生らの成果も掲載されていた[3]。ホスホール、トリアゾールを有するP,N型配位子、相乗的な複素環の効果が金属触媒や有用な光学特性を有する超分子材料を提供すること、ヒュースゲン環化を利用した合成法であること、PdとPtで配位様式が異なること、Pdの配位は、配位子の共役系の光学特性を調節できることなど紹介されていた。
 奇しくも、どちらもリンを有する系である。リンは、原子量31。アイスクリームとは関係ない。そういえば「お疲、Magnus I」でも、リン酸触媒であった。日本発で、拡がりをみせる化合物群、凛として研究に挑んでおられる方々に、敬服するばかりである。

[1] Chemical & Engineering News August 31, 2009, p. 25.
[2] 対照的にMen expect deep interaction with lovely ・・・.かな? やりすぎると不リンになる。
[3] Chemical & Engineering News July 27, 2009, p. 47.
09.9.2

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海の住人の技をまねる

 ミミズの様な海に住む虫(sandcastle worm)は、こわれた貝殻や砂を集める[1]。それらをつなぎ止める「のり」を分泌して、水中で筒状の穴を作って暮している。数センチの虫だといって、あなどっていると、話題に乗り遅れる。この「のり」は、陰電荷を有するタンパク質と二価の陽イオンのコロイド溶液であるらしい。これを粒状にして、分泌する。そのpHはおよそ5。「のり」は、pHおよそ8.2の海水にさらされると30秒以内に固まる。
 この虫「のり」にまねて、pHの変化によって、水の中で物をつなげることができる人工「のり」の設計に取組んでいるチームが、ユタ州にある。海のない州の研究者が海中生物から知恵を授かっている。リン酸、一級アミン、カテコール側鎖を持つポリアクリル系化合物を合成し、pH調製で接着できる「のり」を開発中である。骨折の際の骨の治療等への応用をめざすが、生体内の抗体反応が手強い。「のり」のいい話、実現できる日が待ち遠しい。

[1] Chemical & Engineering News August 24, 2009, p. 32.
09.9.1

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