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2011年10月

フルオロボレート

 (B(CF3)4-)は化学者の夢である。名前はボレートでも「ぼろ〜い」わけではない。このアニオンは相棒のカチオンを見事に安定化し、ボロン炭素中心を反応性の低いフッ素原子で覆い、別のいかなるアニオンよりも弱く配位する[1]。この特性はリチウムイオンバッテリーの完璧な電解質として利用できること、また親電子カチオン触媒のカウンターアニオンとしても最適である。ただし、だれもこのアニオンが充分な寿命があるのかをみたことがない。以前、ドイツの研究者らは、カリウムシアノボレート[KB(CN)4]のシアノ基をCF3基で置換える反応での合成が試みられたが失敗に終わっていた。それに対して毒性も高く取り扱いが簡単ではないClFガスをHF水溶液中で使って[KB(CN)4]のCN部位をCF3部位に置換える反応で合成された。ここまでならば、フルオロボレート合成には手もフルえてオロオロする。そこで反応機構、反応速度、熱力学が研究されて、反応条件を安全に制御する方法を、先のドイツの同一のチームが開発した。-78 ℃から30 ℃の温度範囲で低圧のClFを使うこと、塩素ガスと、窒素ガスを除去するために、定期的に反応を停止させることが必要である。この方法で現在60gの[KB(CF3)4]を一回の反応で合成することができる。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, October 10, p. 40.
11.10.31

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不在の間に

 出版社の方に訪ねていただいた。お会いできなかったのは残念である。エレメントランプの販促活動ではないと思う。で別の方に聞いた話である。トランプ発売後、エレメント○○という企画や申し入れがあるという。ある先生からはエレメント麻雀はどうかという提案。役満はジシラアセチレンやタキソールという名前になりそうである。ただしルールもまだない。なのでまずは「エレメントいろはかるた」を考えた。い:「イオウの香で温泉気分」ろ:「ロジウム使って排ガス浄化」は:「ハロゲン脱離で結合形成」みたいな感じで、ここでネタ切れである。ただし出版社の方は、トランプからカルタなども商品にして販売することには遠慮がちである。トーイ(おもちゃ)業界は遠い存在である。販売戦略も違うし、ヒット商品になったときに「おたくは・・・」と言われるかもしれないので、気遣いをされているのだと思う。それでも面と向かって「エレメント○○広げてくださいね」とお伝えしたかった。
11.10.30

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化学会館三階

 にChemistry Letters(CL)誌のオフィスもある。基本的に二人が、投稿論文の受理から始まって、審査前と終了後はすべて担当する。JACSへの投稿が年間10000論文を超えるのに比較すると処理件数はそれほどではないけど、多忙を極める。業務が深夜に及ぶこともしばしばである。ACS同様[1]に審査前チェックも行われる。その後の審査は、編集委員長の指示のもと、編集委員チームがお手伝いをする。しかも化学全般をカバーするCL誌なので、編集委員の分野も多岐にわたる。今回そのCL誌の投稿システムがリニューアルされた。今年の編集委員会では、どのシステムがよいかが議論されて、ACSも採用しているScholarOneにすっから〜と一本化された委員会では「どういう機能を盛り込むか」などの議論で盛り上がった。その後、投稿・審査システムの新作が誕生した。10月上旬から移行したので、しばらくの間は、ぶしつけなメールやお知らせが審査をお願いした先生の手元に届くかもしれないけど、そこはお許しを。それよりなにより処女航海に出たシステムを使うには、まずは論文投稿してお試しあれ。後悔しないためにも

[1] 化学、2006, 61(8), 12
11.10.29

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往復切符

 岐阜—東京都区内を購入する。それでも得はない。混雑する通勤時間帯の快速で名古屋まで移動。新幹線名古屋駅構内で「きしめんを」と思ったが店内には誰もはいって(ん)ない。張り紙があって10月28日まで改装中とある。知らぬ客人は、改装に、かわいそうである。下りホームのお店と、同じホームの別の場所も書かれていた。別のホームに行くと新大阪行きの世話になりそうだったので、同じホームでやりくりをした。その後、待合室で過ごす。なんだか、まえの席に、カバンを置く客人がいる。カバンが右に倒れる。右に着席の別の客人、遠慮がちに、でも迷惑そうにカバンを払う。でも力不足で動かない。置いた当の本人は身なりを整える、携帯をいじるで、椅子には一瞥もしない。右の客人は不機嫌そうに左の客人を左上に見る。これ今度、コントネタに使えそうと思いながら、自分の乗るべき号者付近に移動した。そこで8年程前の修了生M君とあった。彼の名古屋での仕事の成功を祈りつつ、自分は東京へ向かった。
11.10.28

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尿のパワー

 妙な話ではない。ネズミの尿にはあらゆる種類の情報が含まれ、これによってネズミ社会は魅力的になるという話である[1]。その香り分子は、セックス、オスの優位性、妊娠していること、あるいはメスが排卵期であることを示し、ネズミはほのかな恋を求める。ネズミの尿には多くの揮発性化合物があり、たとえば2-secブチル4,5-ジヒドロチアゾールは、ネズミ社会では、オスが支配的であることを示しているらしい。ところがこれらの揮発性化合物は短時間では飛んでいってしまわない。その点に関して研究がなされた結果、尿には様々なタンパク質も含まれることがわかり、それらは主たる尿タンパク質(major urinary proteins MUPs)と名付けられている。研究者らは、12から15の異なるMUPsを発見し、そのいずれもが同様の三次元筒型構造であることを発見している。揮発性化合物は、この筒に包み込まれて、揮発性が抑制され長時間にわたって化合物による会話(chemical communication)が継続される。一方でネズミの性フェロモン感知器官にある受容体はMUPsのアミノ酸残基のわずかな違いを認識し、家族か、恋人ならぬ恋ネズミか、敵かを見分けることもできる。
さらに詳細も書かれているが、この研究者らは、野ネズミを実験に使っている。噛まれる恐れはあるものの、研究室で育てたネズミではMUPsが半分程度になってしまうらしい。ネズミも隅に置けないけど、この話は済みました。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, October 3, p. 37.
11.10.27

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ミリピードは、

 むかで(centipedes)に似た虫で、日本語ではヤスデと呼ばれている。「むかでに噛まれるとむかつくで」である一方、ヤスデは毒を持つ。ベンズアルデヒドにHCNが付加したシアノヒドリンを体内に蓄え、侵略者の攻撃を受けるとHCNを出す[1]。そのヤスデのうちMotyxiaと呼ばれる種が、カリフォルニア生息地を、夜食代わりに捕まえられることもなく、夜でも安心してぶらぶら歩くことができるのは、緑色蛍光タンパク質に似た光タンパク質によるものであることがわかった。これによって家畜などは緑青色の光を感知する[2]。実験は164のヤスデを集め、半分には生物発光を隠すために色を塗った。またモデルのヤスデ300の半分には、化学発光色素を、後の半分にはカモフラージュ用の色を塗った。その結果、生物発光が見えない本物ヤスデとカモフラージュヤスデは、もう一方のグループと比較して、攻撃を受けたものは2倍に達した。これは生物発光が警報シグナルになることを示した最初のフィールド実験である。なお「ヤスデの実験、たやすいで」と思ってはいけない。有毒な虫のペイントも命がけだった違いない。ペイント中のフェイントで、噛まれても困る。

[1]クラム有機化学第四版、p. 256.
[2] Chemical & Engineering News, 2011, October 3, p. 34.
11.10.26

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アルカン-1,1-ジオールは

 アルデヒドの水和物であるが、平衡はアルデヒドに偏り単離は難しい。それでもトリクロロアセトアルデヒド(クロラール)の水和物は融点57 ℃の固体で鎮静剤や睡眠剤でもある。意識不明にさせることもできてMickey Finnとも呼ばれているらしい[1]。このケイ素同族体であるシラン1,1,-ジオールが高い効率を示す非共有結合性の金属を含まない触媒として導入された[2]。シラン1,1-ジオールは、酢酸イオンや塩化物イオンを認識し、インドでなくても、バインドすることは知られていたが、尿素、チオ尿素やグアニジニウムを組込んだ有機触媒と同様に、水素結合供与性触媒として使えるかについては誰も検討していなかった。今回ケイ素上にナフチル基が二つ組込まれた誘導体がβ-ニトロアルケンを活性化させ、それに対する置換インドールの求核攻撃も促進できることを確認した。さらにナフチル基に替えてビナフチル基を組込んだ系でも同様の触媒作用があることを示し、キラルシランジオールの可能性も探索している。なおこの研究はオハイオ州で推進されていて、オイオイ継続されることも期待できる。

[1]クラム有機化学第四版、p. 263.
[2] Chemical & Engineering News, 2011, October 3, p. 34.
11.10.25

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熊本城入口

 櫨方(はぜかた)門から入る。加藤清正が1601年から7年の歳月をかけて築城したお城らしい。今では、門に至る橋の手前の清正の銅像が「どうぞ〜う」と観光客を迎える。清正といえば虎退治である。今年は真弓さんに、弓を放つ様に命じたに違いないと、来年は虎退治休憩を念じた。そびえたつ石垣沿いに歩く。天守閣にも登った。城については素人な自分でも、当時よくつくったなあと感じる。関ヶ原以降のお城の巨大さは「これには逆らえませんで」あるいは「これが守ってくれている」と人たちに思わせる威容がある。それでも西南戦争では、西郷軍の攻撃を受けて、天守閣なども焼け落ちた。時の明治政府軍の谷千城は、城にたてこもり、新政府軍の先頭にあった。その10年程前には、西郷隆盛とも意気投合して倒幕へも参戦したらしい。復元された本丸御殿、金箔を駆使した屏風絵、スペイン語を話す外国人の観光客、それにスペイン語で返すガイドさん。どすは利いていなかったけど「ウノ、ドス・・・」と柔らかに話されていた。
11.10.24

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TAKENAKA先生は

 マイアミ大学で研究室を運営している。キラルヘリセンを合成して、これを配位子としてイミンのアリル化などにチャレンジされている。18歳で米国東海岸の大学に留学されてすでに長い。英語で講演をされた、と同時に物腰の柔らかい関西なまりの日本語もすばらしい。ある会の二次会で話す機会をもらった。リーマンショックの後、NIHは研究費を半分にカットした。それに怒っとても始まらないけど、採択する人数を半分にした。なので採択率は7%程度らしい。それでも13頁の申請書にアイデアや実際の戦略、さらには研究費の使途も詳しく書いて提出する。同世代がライバルになる。研究分野によっては採択率の高い分野もあるけど、研究の指針をそれにはあわせたくはない。学生をエンカレッジするのも自分の役割の一つ。TLCは今でも、反応の進行具合をみる大切な道具である。著名な先生の学生時代のこと、ボスが「TLCはどうか」とあまりにうるさいので、その学生さん、出発化合物、目的生成物に副生成物をTLCに打ってボス用に用意していた。ボスに見せたら、テーリングしていないと見破られたらしい。などなど話はつきなかった。
11.10.23

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熊本にいます

 (く)まともに振る舞わなくてはと、服装も正して、複素環化学討論会に出向く。発表者がステージに登壇して、自分の化学を紹介する。いつもの光景、基本的には環状な化合物が出来上がる、あるいは使った話である。塩基存在下での酸触媒反応に、はてと思うけど、化合物は変換されている。「なにが絡んでるか、わからんで」でもパワーポイントは次に進む。その化合物、光特性も是非確かめて欲しいと思うのもたくさん登場した。130件あまりのポスター発表、わずかしか見ることができなかった。研究室で鍵になる反応を発見して、それが今に至っていることを、わくわくと話す学生、かたや「まあ続きなので」という学生、その違いは歴然である。求核性塩基、翼をもった不死鳥に自分は見えた。発表者曰くに「紅白歌合戦の小林幸子さんみたいである」と言われたことはあるらしい。これからこの触媒は「サッちゃん」と呼ぼうとしたけど、これではグローバル化には対応できない。指導されている先生ともお話させていただいて「丹頂鶴」がよいのではないかとなった。優雅な翼がキラリティを見分けるのはよしとして、こちらも対応する英語がない。鶴やからtrue chemistryでもいいか。
11.10.22

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サメ(シャーク)に

 おそわれると、しゃくにさわるどころではない。その一方でサメの細胞にあるカチオン性ステロール分子には、ウィルス感染を回避する強い能力があることが示された[1]。研究は脂質天然物であるスクアールアミンが新規な坑ウィルス剤としてのリード化合物になりうることを示している。最初は小型のサメから単離されたスクアールアミンがすでに非ウィルス性疾病の治療薬として試験がなされていた。その結果は、スクアールアミンがウィルス酵素を抑制するよりもむしろ細胞と相互作用することで坑ウィルス効果を示していると思われていた。ウィルスは細胞に入り込む際にしばしばタンパク質に依存するが、X-線回折ならびに分子動力学シミュレーションにより、脂質はRac1と呼ばれるタンパク質を、細胞膜から置換えることができることがわかった。さらに試験管内での実験でもスクアールアミンがテング熱の感染を抑制すること、ネズミを黄熱病、脳炎などから保護した。ただし細胞内に多量に摂取すると毒性の兆候が現れた。
 スクアールアミン、どこにでもスグあるかはしらないが、化学式はC34H65N3O5Sだった。サメがつくるとは、目がサメた。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 26, p. 28.
11.10.21

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カルボン酸は

 しばしば医薬品候補化合物と生物学的な標的の相互作用を媒介する。ただしこの官能基は、代謝系では不安定であることなど問題を引き起こす。そこでそれの代替ユニットの開発が行われている。今回シクロペンタン1,3-ジオンを使った系が開発された[1]。それを使った戦術は有効に作用し、血液凝固の際に鍵となるトロンボキサン受容体の遮断薬候補を提供できている。ドラッグディススカバリーでは、様々な修飾ができるほうが好ましい。今回のジオンは、要請があれば脂溶性もチューニングできること、分子中に接続できる部位が二カ所あることから無数のオプションを考えることができる。これまで誰もこの官能基をカルボン酸代替物として考えなかったことが驚きである。
 これはAmos B. Smith III先生らの成果であるが、先生は以前、自分の恩師が随分前にシクロペンタン1,3-ジオンの酸性度について話していたことを思い出して試してみようということになったらしい。恩師とは音信不通にしないほうがよい。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 26, 28.
11.10.20

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ポルフィリンは、

 含窒素環状18π電子系化合物で環の中には四つの窒素原子があり、これらが金属に配位する。今回この環内にエチレンを組込んだ化合物が合成された[1]。すなわちCoポルフィリンとジヨードアセチレンとの反応によってエチレンの二つの炭素が、ポルフィリン環内の向かいあった窒素と結合した化合物を形成し、それをさらにSmI2を使った還元反応で四つの窒素がエチレンの二つの炭素にすべて共有結合した化合物を導いている。この中性の化合物は反芳香属性を示し、それをAgOSO2CF3で酸化して得られるジカチオン種は芳香族性を示す。これまでポルフィリン骨格を工夫した様々な系が報告されてきたが、純粋な有機化合物として共役系を形成しているものは初めてである。スペクトルと理論計算の結果は、通常のポルフィリンとの差を如実に示している。たとえば紫外可視吸収スペクトルでは335-560 nmの間に三つの強い吸収が見られる。これは太陽エネルギーを集めるための分子としても使える可能性がある。
 ちなみにエチレンが環内に入るなんて、わカンナイもんである。ただ一連のエチレン誘導体が入るかは、次の課題だけどもね。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 26, p. 27.
11.10.19

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カルボン酸をケトンに

 変換するには、酸を一旦、酸塩化物かアミド(たとえばWeinrebアミド)にして、それに対して有機リチウムかマグネシウム反応剤を加える。ただし有機リチウムを使った場合には、生成したケトンが「キョトンとしている間に」さらに反応して三級アルコールの副生を心配する必要がある。またカルボニル基のα位がキラル炭素の場合には、たとえセミはいなくても、ラセミ化も一部進行する。それに対してアルキルリチウムとCuCNから調製したR2CuLi・LiCNを使ってカルボン酸を直接ケトンに変える方法が開発された[1]。たとえばS体の2-フェニルブタン酸とMe2CuLi・LiCNとの反応ではグラムスケールでケントン(検討)し、メチルケトンを収率93%、98%eeで得ている。同様の反応をMeLiで行うと収率66%、92%eeだった。二リチウムケタ−ル中間体に対して銅ケタール中間体の(ケタ違いの)安定性のためであると考えられている。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 26, p. 27.
11.10.18

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公的研究費

 たとえば科学研究費がそうである。来年度の申請の提出期限も迫り、ない知恵を搾り出しては、書類作成をしている頃である。申請分がすべて不採択だと、研究室の学生さんのテーマが「論文読んでまとめなさい」にせざるを得ない状況になる。なんとかしなくてはと、もがいている。一方で適正に執行しなくてはいけない。原資は税金である。しばらく前、立場上、その状況を拝見させていただいた。自然科学系とそれ以外では随分違う。自然科学系でも、支出の中には「家畜の餌」などもある。事務の方は現場に行って、その納入を確かめる。食品系では、鍋料理の食材になるものも研究材料になる。事務の方にとってはそちらの方がわかりやすい。化学系で注文する「桂皮酸」を必要経費としてよいかは教員まかせである。時に「桂皮アルデヒド」を注文して「景品あるで」たとえば浅田飴がついていたときに、これを個人でいただくわけには基本的にはいかない。幸い、たぶんそんな事例はない。で文系の先生方の執行状況を確認させていただいた。実地調査とある。採択された研究費からかなりの出費で国外に大講座のスタッフ二人が出向かれたらしい。コアラの住む国である。思わず「こらあ~」と言いたくなったけど、使用のルール通りである。

11.10.17

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マンションの一室

 そこが彼女のオフィスである。新しい商品が目まぐるしいくらいに登場する保険業界。封建的かどうかは知らないが、ビジネスライクではいけない。個別のクライアント(顧客)の事情に合わせた組合せを紹介する。その数、数千をスタッフと二人で応対する。土日には多くの方々が相談に来られる。合間をぬって研修会、時には海外にも出向くらしい。生命保険の契約をしたくても、疾患があって加入できないケースもある。「保険なんか、入らんぞ」と言っている場合はいいが、「あなたが加入できる保険はありません」と言うのはつらい。支払いの段になって豹変する人、難癖つける人もいる。「それって今、目の前にいる人のことですかねえ」と聞く。当然「まさか」と模範解答をもらう。
 部屋にはハーブの香、キャビネットには瀟洒なコーヒーカップ。ネスプレッソをごちそうになった。16種類のグラン・クリュから選ぶ。それぞれがカプセル化されている。それを人にカセル(貸せる)かは聞きそびれた。腑(プ)抜けである。
 しばし異空間で過ごさせてもらって、なんだか高揚している。紅葉の季節も近い。
11.10.16

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採用担当の方から

 「学生紹介してくだサイヨウ」と連絡をいただいて紹介するも、しばらくして残念ながらという話や幸いという話も聞く。今年は震災の影響もあって、例年とは違った苦労が採用活動でもある。その中10月になって「内定を出すことができた」とお礼に来られた企業の方に、今回の採用活動の実績などもお聞きした。「とりあえず内定」を出した学生の2割が辞退してしまって現在も募集中という話、一方で採用予定の1.3倍が入社予定になったケースもあった。どことも個別の技術を持った事業展開をしている企業である。堅実さと大胆さも伺えると同時に、この種の企業がこの国を支えているに違いないと感じる。個人的には「来年3月から来てね」と最初に言ってもらったところでお世話になればよいと思うけれども、このご時世である。担当の方が深々と頭を下げられて「ありがとうございました」と言われた段には「自分は何もしていないのですけど」とは言えなくなってしまった。その分、来年3月修了の学生諸氏には、予定の企業でお世話になって、そのうちに恩返しをして欲しい。半年で見違える自分になることもできる。
11.10.15

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2012年国際化学オリンピック

 の開催にダウケミカルが250万ドル寄附する[1]。44年の歴史を持つこのオリンピックで二回目のアメリカ開催が、ダウのお陰でダウンすることはなくなった。40カ国以上で業務を行っているダウは、今回のオリンピックを次世代の科学者を勇気づけるよい機会であると位置づけている。「95%以上の工業製品は、あるレベルの科学が必要であり、高い教育をうけたすばらしい科学者が、われわれの会社、地球やコミュニティを持続可能なものにするだろう」とダウのCEO(最高経営責任者)は述べている。これに対してACSの会長は「ダウのお陰で、日々の生活の中での化学の本質的な役割や、世界の差し迫った課題に対する解を発見するために化学を使う将来の革新的な人に対する、一般市民の理解度を高めるよい機会を得た」と述べている。70カ国以上が4名の高校生を派遣し競うこの大会の全体経費は、270万ドルと推定されているが、今回の寄附で開催地カレッジパークもエンカレッジされるに違いない。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 26, p. 6.
11.10.14

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アルコールは

 安価だけどアルキル化剤としてはあかんかった。非常に有用なHeck反応のような炭素−炭素結合形成反応でも、脱水素を含む副反応も進行するために、これまでは使われてこなかった。それに対してカチオン性Ru錯体を用いることで、最も豊富に存在する二種類のフィードストック(工業用原材料)すなわちアルケンとアルコールをカップリングさせ、水だけを副生させる反応が達成された[1]。すなわちアルコールの炭素−酸素結合の開裂によってアルキル化剤が発生している。アルコールの種類も豊富でアルキル化剤にあきることはない。この反応は様々な官能基が存在する生物活性なアルケン、たとえばストリキニーネに対しても穏やかで、たいていの官能基が反応中でも生き残り、キラル中心も影響を受けない。このプロセスは高い効率で廃棄物ゼロの様式で複雑な骨格構築を可能にする潜在性を有している。ただしいくつかの場合には混合物が得られるが、今後これらを制御する別の配位子探索が期待されている。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 19, p. 29.
11.10.13

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ヒドロホウ素化反応では

 スチレンの末端に水酸基を導入することができる。ただしこの場合には両論量のホウ素化合物が必要である。それに対してGrubb先生らは触媒のトリプルヘッダー法を開発した[1]。最初はPdが媒介するアルケンの特異な酸化でアルデヒドを導く。続いて酸加水分解とRu触媒による還元で一級アルコールを得る。これまでのところスチレン誘導体が最も高い効率を示すが、触媒量が多く、しかも両論量のベンゾキノンが必要である。それでは気のン毒である。これに対してこの研究チームの一人Guangbin Dongは現在テキサス大学で、これらの限界を取り除くために、新しい触媒設計と条件最適化を行っている。ベストな水酸基の末端への導入法、しばし「待ったらん」といけないようである。
 ちなみに先日テキサス大学訪問の折りDong先生とは体調不良でお会いできなかった。代わって研究室のポスドクと話をしていたら、火災報知器が鳴った。五階から階段で降りるはめになった。とは言え何事もなかった。新しいビルなので、わずかな煙なんかにも敏感らしい。報知器はインチキではなさそうだった。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 19, p. 29.
11.10.12

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通常の炭素−炭素単結合の

 長さは1.54Åである。それに対してこの長さが1.704Åの部位を有する分子が報告された[1]。この異様に長い結合は、ダイヤモンド構造を有する二分子の三級炭素同士をつなげた構造をしており、このつなげる部分が長く、長さに相反してそれなりの強さである。ここでも「ダイヤモンドは偉大なもんど」である。熱的には200℃を超えるまで目立った分解は進行しない。この分子の合成に成功した研究者らは、この分子の安定性は長くなった単結合付近で、分子内分散相互作用、別の言い方をすればロンドン力が「どんどん」働くことで、導かれているとしている。彼らは量子化学計算によってもそれを明らかにしている。さらにこの発見は、回転障壁や、枝分かれアルカンが直鎖アルカンと比べて熱力学的に優位であることの一因を示していること、また分散相互作用を使って構造を設計できることも示しているとも述べられている。
 ちなみにLondon力は、極性を持たない分子でも部分的に極性が生じ、それが引力として作用するような力らしい。ドイツ生まれのフリッツ・ロンドン先生によって示された。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 19, p. 28.
11.10.11

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アニソールの還元

 ありそ〜るで触媒的な例は多くない。Ni(0)錯体とヒドロシロキサンの組み合わせで実現させている。Pd触媒存在下、臭化アリール、CO2とZnEt2とから芳香族カルボン酸をつくる。などを拝聴、スペイン/カタルーニャから来た若手ですぐれもののR. Martin先生、懇親二次会では、日本酒に焼酎も口にしていた。スペインで学位を取得した後、ドイツで一年さらにアメリカMITで3年を過ごした。スペイン時代に知り合った彼女が、スペイン在住を希望したので、そこのポジションに応募して3年、独自の成果を続けて発表している。Reviewの執筆依頼は失敗に終わった。すでに3つ頼まれているので、1年半後とのこと。2004年のChem.Lett.のreview、Furstner先生と共著だったことを強調された。名残惜しく、12時過ぎに部屋に戻られた。一夜明けて朝食会場に向かった。参加の女子学生らとエレベーターで一緒になった。「朝食券持ってる?」「はい」「謙虚やねえ」で一日が始まった。
11.10.10

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アンクリックケミストリー

 と呼ばれる反応が報告された。クリックケミストリーは反応性の高い小さな合成単位を使って新しい化合物を組み立てる。信頼性の高さから医薬品化合物、高分子、生体プローブの合成に利用されている。アジドとアルキンの反応から置換1,2,3トリアゾールを合成する反応は最もよく知られた反応であるが、このクリックのトリックは銅触媒を使っている点である。反応は速く、副生成物もなく、得られた化合物は化学的、熱的、光化学的にも安定である。それに対してこのトリアゾールをほどき、アジドとアルキンに変換する反応が超音波によって達成された[1]。具体的には、二つのポリメチルアクリレートをトリアゾールがつないでいたが、これが逆環化反応(cycloreversion)によって開裂した。超音波によって小さな泡が発生するにつれて生じてくる真空がトリアゾール部位に物理的な力を、どっチカラか、かけている。研究者らはこの化学反応を促進する機械的な力に目を向けてほしいこと、これによって高い選択性や独自の化学反応を見いだす可能性もあることを指摘している。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 19, p. 8.
11.10.9

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アルコール化学

 と言っても始めは飲用のことではない。環境調和型の溶媒研究としてフェニルボロン酸と4-ブロモベンズアルデヒドの鈴木–宮浦カップリング反応が検討された[1]。用いるPd触媒はトリパラジウムトロピリウム錯体で、三つのパラジウムはいずれも0価である。最初は水中で反応を行ったがほとんど進行しなかった。ついでエタノールを用いたところ96%収率で生成物を得た。40%エタノール中でも86%だった。そこでリキュール中で反応を行った。ジンが最も高い収率で、ほかのタイプのリキュールでも概ね90%以上であった。今のところこれらの酒類の中の別の成分が反応を促進しているかどうかは確認していないが、安物のお酒の方が高級リキュールや純粋なエタノールよりもよい結果を与える。ここで研究者らは、大学やNSFは交付金でのリキュール購入を快くは思わないだろうとして、この実験の溶媒は、ポケットマネーで購入しているらしい。ただし実験の後、それを飲用するお楽しみつきである。アルコール溶媒中での反応開発を行っている他の研究者とともに「学生を引き込むためのよい道具であると蒸留酒の使用を絶賛し、研究室への学生勧誘にも効果的である」としている。「酔いで学生をよいしょ」している。まあこれもよいでしょう。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 12, p. 24.
11.10.8

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シルクの年代を

 知るクことができるらしい。値段のつけようもない高価な織物のほんのわずかな部分から昔のシルクの年代決定法が開発された[1]。従来は、炭素14を元にした方法が唯一だったが、それよりも少ない量で、新しい質量分析を元にした技術で決定できる。絹はカイコから出たタンパク質がからみあったものでできており、2500年の間のいずれかの時期に、旗、織物工芸品、カーペット、衣服に使われてきた。研究者らは絹タンパクのアスパラギン酸残基をチェックし、時間とともにゆっくりとL体がD体へとラセミ化することを発見した。ここでLとDの比を測定することで繊維の年代を決定することができるとのことである。その例としてトルコの1500年代の織物工芸品が使われた。ちなみにこの研究はスミソニアン博物館の保存協会の保存化学者(conservation chemist)であるMoiniによってなされた。スミソニアンでの挑戦、「済みそにないあん」かもしれない。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 12, p. 20.
11.10.7

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高性能処理による反応の発見

 最適な触媒反応系に出会うためには、数千を超える反応を探索しなくてはいけない場合がある。触媒、配位子、出発化合物、溶媒の組合せは莫大である。それに対して単純な研究室にある装置と質量分析で短時間にこれらをスクリーニングする方法が報告された。ただし反応のスクリーニングは速くても装置のクリーニングは必要だと思う。ここでは96の穴(well)があるプレートに触媒前駆体、配位子、17の出発化合物を加えた。ほぼ同じ分子量の出発化合物を用い、生成物と分子量が簡単に区別できるようにした。それぞれの穴の質量分析を避けるために、それぞれの列と行から代表的なサンプルをとり、それを分析し、期待の生成物が存在する穴を特定した。この方法「ふるい分けの繰り返し」であるが古いわけではない。研究者らはMSワードがクラッシュした時に、どの文書がこわれているかを特定する方法からこれを思いついたという。イリノイ大Hartwig先生らによる銅触媒によるアセチレンのヒドロアミノ化反応の報告だけど、先生らは最近U.C.Berkeleyに移籍された。大いなる成果とともに移籍、一石二鳥である。
11.10.6

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「有機工業化学」の

 講義が始まった。第一回目は、資源、製造プロセス、製品という流れに、「販売戦略」についても話した。ただし最後の部分はこの講義の範疇ではない。それでもTOTOのウォシュレット、いわゆるシャワー付きトイレのことに触れて「ボーイング787にも搭載」とも紹介。ボーイングにブーイングがなかったのが幸いして炭素繊維についても話した。
 日本のある企業の事業展開、リストラ状況、6—7年の間に1万人のリストラを敢行したらしい。本学工学部に関わるすべての人に退場してもらってもまだ足りない数である。最後に教科書と配布したプリントにある項目の中で、何を一番学びたいかを書いてもらった。ここ数年の定番である。燃料、染料、洗剤、香料、化粧品、農薬、医薬品の人気の高さは、いつも通りである。ただし今回、ハーバー・ボッシュ法を詳しく知りたいというメッセージが多かった。来週の講義である。改めて準備がいる。まあボッシュのことを理解できなくても単位没収(ボッシュウ)にはしないので安心して、静かに聞いてね。
11.10.5

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Diels-Alder反応では

 ジエンを用いる。ただし必要となる共役ジエンを自作自演したいと思っても時には安定性が低く合成が難しい。アルケンの脱水素化による経路も考えることができるが、反応条件下、ジエンはオリゴマ−化とも縁があってここでも単離が難しい。それに対して、研究者らは脱水素化と環化反応を連続して行う系を開発した。これによってジエンの単離を回避することができる[1]。この系ではPd(II)スルホキシドが末端アルケンの脱水素化を触媒し、反応性の高いトランスジエン中間体が発生する。ついでこれが電子求引性オレフォンと環化反応を引き起こしシクロヘキセンに至る。この系を用いてヒドロイソインドリン、シスデカリン、ヒドロイソキノリン、イソインドロキノリンや、他の複雑で天然物合成や医薬品化学で興味ある環状化合物が合成されている。この方法は、従来法に比べて、より少ない段階と高い効率で、これらの合成を達成している。「そのためコストや廃棄物の削減さらには合成に要する時間の短縮にもつながっており、アカデミック、産業界いずれでも直ちに使われる価値のある反応である」とコメントされている。
ちなみにWhite先生らがファイトした成果である。

[1] Chemical and Engineering News, 2011, September 12, p. 9.
11.10.4

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地球全体のダストの

 およそ1/3をアジアが出すと言う。この地域の地形学と気象学がダストを大気の高いところまで引き上げ、その後太平洋を越えて移動する。一般に大気中のダストは雲の中の氷の生成過程で鍵であることは知られているが、ダスト沈殿の効果はほとんど理解されていなかった。今回アジアのダストと雲の中の氷の量やシェラネバダ山脈の降雪量の関係が明らかにされた[1]。大気中のエアロゾル粒子の特性や沈殿サンプルの組成を質量分析によって確認した。また衛星と気象学的なデータを使ってダストの移動を追跡し、2009年のアジアの砂塵嵐も突き止め、それがシェラの雪塊を16インチ押し上げことも追跡できた。シェラのことはシャレではない。この成果はカリフォルニアにおける雲の特性や沈殿に関する長年の研究の一端である。雲や雪塊は気候にも影響を及ぼすため、地域的あるいは地球的規模の気候モデルにも波及するものである。人間の活動が多くの場所でダストを巻き起こすため、この結果は他の地域の現象のことも同様に解析できるかもしれない。

[1] Chemical & Engineering News, 2011, September 5, p. 16.
11.10.3

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学外の発表では

 iBook G4を使っている。国内はもちろん2005年のハワイ年会以来、外国出張の折にはお供してもらっている。ところが先週の火曜日、ケーブルをつないでも電力供給しているランプがつかない。たしかにしばらく前、ケーブルのパソコンに差し込む部分がゆがんだせいで少々こつがいる。それでも先日の米国中西部11日間の電源供給も難なくやっていた。今回はコンセントを差し込むとバチバチと小さな音がする。「コンセントなんとかせんと」と気持ちはあせる。早い話、電源アダプターの故障で、こちらはあたふた~である。金曜日には出前講義。Macが使えなくて、お先真っ暗である。ネット検索をすると幸いAmazonにその商品があった。ただし微妙に違いがあるようである。到着して接続できないとAmazonで大損になるが、ともかく注文、ただし発送予定日は104日とある。出前講義に個人情報満載のパソコンを持っていくわけにはいかないと考えてWindowsマシーンを使うことにした。ところがパワーポイントが一部化けてストーリーが続かない。ファイルのフォーマットの変換などをしながらWindows版も作成して金曜日に備えた。で先のネット注文した分の発送日が早まり、木曜日に手元に届いた。のどの渇きを潤すごとく、バッテリー充電がバッチリーだった。iBook G4君、これからも頼みまっせ。

11.10.2

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刈谷で

 わカリヤすい講義ができるか、ともかくJRで向かった。駅からタクシーを使った。タクシーとは行き先を託す〜ものである。「お客さんは、そこの高校の先生かのお」「いえ違いますが」「そこの高校からどれくらい東大へいくんですかのお」「よく知りませんが、○○人くらいですかねえ」「ほお、そうも行くんか、野球も強いしのお」などの会話の後、高校についた。三ヶ月ぶりの出前講義、腕前はやってみないとわからない。いつもと同様に静かに聞いてもらい、冗句には笑いで答えてもらった。分子模型を使ったコーナーに入ると、生徒たちの手際のよさと理解度の高さが際立っていた。予定していた時間よりスムーズに進み、2,3-ブタンジオールまで組み立てた。四つの構造式を書いて、どれが同じかも尋ねた。ほぼ全ての生徒が正解していた。エキストラでルイ・パスツールの事、周期表でのエピソードも多数紹介して終えた。質問コーナーでは「先生のやっておられる研究は、実際の生活の中でどの辺に使われるのですか」という直球も飛んできた。「名大でグラフェンがまるくなったものがつくられましたよねえ」「理化学研究所に入るには?」なども聞かれた。刈谷からの帰り、カロヤかだった。
11.10.1

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